夜明けの街で

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数分歩いただけで着いた場所は 見るからに高級そうなマンションで 立ち止まる事無くマンションのエントランスへ続く 数段の階段を上がって行くから、それに黙ってついて行けば 傘を閉じ自動ドアを抜け カードでオートロックを解錠して、開いたガラスのドアの向こうへと進む。 良い人なのか それとも悪い人なのか こんなどこの誰だかも分からない女を家に連れて行こうなんて “良い人”とは言えないか……。 なんて エレベーターに乗り込んで 何も話さないその横顔をチラッと見ながら、心で呟くと その目が私へと向き、鼻で笑った。 「警戒してるってより、探ってるって目だな」 確かに警戒なんてのは、こんな生活をしてる私には無いけれど、この人はどんな人なんだろうと探るクセがある。 あっさり見抜かれて 「……別に」 そうブスっとした声で答えたら、また笑い出した。 ほら、やっぱりこの人 笑うと全然違う印象になる。 こんな人、初めて見た。 「そんな笑う?」 「いや、だってさ。 顔も声も思いっ切りふてくされてるから」 彼が笑いながら髪をかき上げたと同時に、エレベーターの扉が開いた。 降りた廊下も凄く綺麗で 私の知ってるようなマンションとは違うと感じながら 少し先を行く、白いTシャツの背中の後を歩く。 廊下の一番端の角部屋 鍵を開け、ドアを開くと振り返り 「入んなよ」 背中でドアを押さえながら 私が通れるだけの隙間を空ける。 何も言わずにその前を通り、玄関へと入ったら勝手に電気が点いた。 「スリッパとか無いけど」 バサッと、手に持ってた傘を玄関の端に立てかけて サンダルを脱いだ彼を真似て、私も靴を脱ぎ 廊下のフローリングの手前の 石の素材のような所に乗せた足に、吸い付くようなヒンヤリ感が伝わる。 廊下を進んで行くだけで 男の人の一人暮らしには あまりにも広過ぎる間取りに圧倒されていたけれど その奥のリビングに入ったら、目に映った光景に更に圧倒された。 通常なら壁の面積なんだろう場所が 角部屋という位置条件もあって そこに更に大きな窓が四方の壁のうち、二つを占めていた。 思わずその大きな窓へと歩き 外に広がる雨に煙る街を見た。 このマンションの最上階14階 タワーマンションでは無いけれど この高さからこの街を見たのは初めてで ひしめく建物と、道路を行き交う車や人が凄くちっぽけなものに見えてしまう。 色んな色の傘が それぞれに違った速度で、違った場所へ向かって動く そんな景色から何故か目が離せなくなって 段々とそれが増えて行く様子を、ただ黙って見つめてた。 それから暫くして すぐ隣に彼がいる事にふと気付いた。
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