ノーガード

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大きめのスウェットを着て 手には借りてたパーカーを握り締め ペタペタと素足でフローリングの廊下を進み 広いリビングを覗き込んだ。 すると彼は大きなソファにでは無く フローリングの上に敷かれた毛足の長いラグの上に座り ガラスのテーブルの上のノートPCをいじっていた。 すぐに私に気付いた彼は 「ちょうど良いとこに来たな」 人差し指でクイっとやって、私を呼ぶ。 言われるままに彼の所へと行くと、隣に座るように言われ “オレが言った事には絶対従って貰う” そんな彼のさっきの言葉が頭をよぎった。 ラグの上、隣に並ぶように座ると テーブルの上のPCを私へ向けて 「今、お前もこの中に組み込んだ」 見せられた会員制のサイトの画面には リサの所よりも遥かに多い女の子のプロフィールが並んでる。 その一番上に、リサの所で使ってた画像そのままで私が載ってた。 「なんで私がトップに……」 「オレのとこのエースだから」 私はこの一年、ただ本当に流されるままに この抜け出す場所が見つからない世界で生きて来たけれど 自分がそこで、そんなに知られた存在になってたなんて これっぽっちも知らなかったし なりたいと願った事もない。 エースだなんて……嬉しくもなんともない。 黙って画面を見つめてたら 私の肩に彼の手が回って、強く抱き寄せられた。 何も言わずに、肩を抱き寄せた手のひらが頭に触れて まるで不貞腐れた子供をなだめるように ポンポンと動く。 でもそんな子供扱いに嫌な気がしないのは 悔しいけれど、本当に私が子供な証拠。 「ねぇ……私、あなたの名前も聞いてない」 「あれ、そうだったっけか」 「そうだよ」 「シュウジ。 木へんに冬、数字の二ね」 「……柊二」 「ん」 柊二という名の彼は 爽やかに甘く匂う香水の香りに混じって 微かにタバコの匂い。 借りてたパーカーを 私がずっと握り締めてる事に気付いた柊二は 「そんな握り締めてたいなら、お前にやるよ」 可笑しそうに 子供な私に、大人な顔で笑った。 . 私にと与えられた部屋は、ベッドはあるけれど布団が無くて 夜の為に眠らなければいけない私に 柊二は、オレはまだ寝ないから自分の部屋のベッドを使えと言った。 柊二の部屋の中は暗めの間接照明 一人潜り込んだベッドの中は 心地良く暖かく、柔らかい。 そしてさっき感じた、柊二の匂い。 こんな寝心地の良い場所、久しぶり。 私の生きる場所が一瞬で変わった 明け方からの出来事を思い出しながら 気付いたら眠りに落ちてた。
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