冷たい言葉

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診察室のドアが閉まる音がした後 女医さんはクスッと笑った。 「誰にでもああいう人だから。 気にする事ないわよ」 別に気にしてる訳ではないけれど 正直、デリケートな部分の会話で知った彼の冷たさに この数時間の間の優しい感じとのギャップに戸惑ってるだけ。 「えっと……澪ちゃん、ね」 デスクの上のメモを見ながら、女医さんが呼んだ私の名前に 小さく頷いた。 「さっき前にピル飲んだ事があるって言ってたわね」 「一年前位に、二日間だけ飲んで ちょっと無理でした」 それは低用量ピルの話で その後、何度かアフターピルも飲む事があって やっぱり動けなくなる程にぐったりした自分しか記憶にない。 「吐き気とか頭痛とか副作用ある人でも さっき彼も言ってたけど、飲み続ければ身体が慣れるから。 初めはまたキツいかもしれないけど、吐き気止めも一緒にあげるからね」 飲まなくていいという選択はないって事。 「それと……タバコは吸ってないわよね?」 「……吸ってません」 何度か口にはしてみたけれど どうにもこうにも、ただむせるだけだった。 そこからいくつか質問をされ、それに答えるのを繰り返し 「前に飲んだピルの名前とか覚えてる?」 聞いたような気もするけれど カタカナだった、そんなレベル。 覚えていないと首を横に振った。 「シートの薬の色が二色あったか、三色あったか……とかはどう?」 リサから渡されたピルは確か……。 「……二色だったと思う」 「だとすると、マーベロン辺りかな。 それなら……今回は別のピルにしてみようか」 ピルには1相性3相性というタイプがあると私に説明しながら 今回はトリキュラーという、3相性タイプのピルにしようと話す女医さん。 私は説明を聞きながらも、ひとつ どうしても聞きたい、聞いておきたい事があった。 「あの……」 「ん?どうしかした?」 「……ひとつ……聞いても良い……ですか」 女医さんは優しい顔で微笑み、頷く。 「………これをずっと飲み続けて……。 それがどんなに長くなっても……… いつか飲むのを止められる日が来たら ………赤ちゃん……産めますか」 私の途切れ途切れの質問を聞いて 女医さんは私の腕にそっと手を触れた。 「大丈夫。 飲むのを止めたら2,3か月で自然と生理も来るようになるから」 ………良かった……。 今はこんな生活をしていたとしても 私も夢を見る。 いつか、大好きな人の赤ちゃんを産みたい 誰にも言わない 秘密の夢。 “大丈夫“ 白衣を着た人の一言は それだけで心強さに変わる。 「柊二にイヤな事言われたら言い返しなさい。 澪ちゃんならそれが出来る気がするし 柊二にも効くような気がする」 彼を呼び捨てにするこの人は あの人の彼女なのかも。 そんな勝手な想像をしながら、診察室を出て待合室の方へと行けば 壁際のソファの端で 座ったまま腕を組み、壁に頭をつけて眠ってる柊二がいた。
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