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うわー!
夕立かぁー。
急な土砂降りに出会い、頭に通学用リュックを乗せながら大慌てで走り出す男子高校生。あいにく、彼が歩いていた場所にはコンビニのような緊急避難的に雨宿りできる場所が無かった。
ピカッ!
ゴロゴロ、ドッカーン!
うえぇ、近くに落ちたか?
やばいなー、とにかくどこか安全な場所で雨宿りしないと。
といっても、大木の下はカミナリが落ちて危険だしなー。
……と、そんな彼の目に入ったのは、古いお寺に通じる山門だった。
山門の両側には、稲光に浮かび上がるように、阿形・吽形の金剛力士像達が天を睨みつけて、どっしりと立っていた。
ふー。
ここなら雨も吹き込んでこないし、避雷針もあるし。それに、なにより、天下のカミナリ様だって山門の両側にいるイカツイ木像には敵わないだろうし。とりあえず、ここで夕立が小降りになるまで待つか。
彼は、びしょ濡れの制服の裾を絞りながら、人心地ついたように激しい雷と大粒の雨を流し続ける空を見上げる。
と、山門の大きなトビラの影で見えなかった場所に、今どき珍しいおかっぱ頭の小学生くらいの女の子がチョコンと膝を抱えるように座って、雷の音に震えている姿が目に留まった。
あれ、可愛そうに。きっと彼女も夕立に巻き込まれて山門に逃げ込んだお仲間なんだろうな。しかも、カミナリの音に震えてるようだし。
彼は、そう思って、脅かさないようにワザと大きな足音を立てながら近づいてから、彼女に声をかけた。
「こんにちは。怖がらなくても大丈夫だよ。ほら、山門の両側に怖い顔をした木像が立っているだろう? だから、カミナリ様は怖くてここには近づかないよ」
「こ、こんにちは。お兄さん、本当にカミナリ様はこの場所にイナズマを落としたりしないの?」
女の子は、少しほっとしたように、彼の方に向き直る。
彼女の顔は、夕立の恐怖におびえているから、という理由以上に青ざめているようだった。彼は彼女を安心させようとして、彼女の横にひょいと座ってから、出来る限りの笑みを浮かべながら女の子の目を覗き込んだ。
彼の満面の笑みのおかげだろうか、彼には彼女の恐怖心が少しだけ緩んだように思えた。彼女は少し落ち着いたのか、全身ずぶぬれの彼を見やる。
「お兄さん、全身びしょびしょ。そのままじゃ風邪をひいちゃうよ。この手ぬぐいを貸してあげるから、体をふいたらどうですか」
女の子は、そう言って彼女のカバンから大きめの手ぬぐいをゴソゴソと取り出して、彼に手渡した。
「ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えて貸してくださいね」
彼はそう言って、手渡された手ぬぐいを片手に、彼女から見えない扉の反対側に移動した。
それから上半身裸になって濡れた体を拭いてから、リュックの中に入っていた体操着に着替えて、女の子のいた場所に戻った。
あれ、おかしいなあ。彼女はどこにいっちゃったのかな?
そう、そこにいたハズの女の子は、いつの間にかいなくなっていた。
山門の外を好き勝手に暴れていた夕立は、いつの間にかピークを過ぎていたこともあり、彼は女の子が急ぎの理由で帰って行ったのだろうと考えた。
しかたないか。明日また山門に来れば会えるだろう。
今日は早く帰って、借りた手ぬぐいを洗濯しておこうかな。
そう思って彼は雨上がりの道を自宅に急いだ。
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