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~由香ちゃん家に寄り道~
「それでは、これで帰りの会を終わります。みんな、寄り道せずまっすぐ帰ってね。それから、中島くんは、宿題を忘れた件でお話があるので、残っておくように」
「そんなぁ。本当に漢字ドリルがどっか行っちゃったんだよう」
クラスのみんながくすくすと笑って、中島くんを見る。かわいそうだけど、やっぱりちょっと面白い。
中島くんと矢島先生が話し始めたころ、絵里ちゃんが声をかけてきた。絵里ちゃんが動くのと同時にピンクのランドセルについた鈴がリンリンと音を立てる。
「ねえねえ、菜穂ちゃん。一緒に帰ろ!」
絵里ちゃんは去年同じクラスになってからの友達で、くるくるにまいた髪の毛がとてもかわいい女の子だ。持ってるものもかわいいキャラクターのプリントしてあるものばっかり。そのせいで由香ちゃんには少し苦手がられているみたいだけど。
「うん、いいよ。あ、でも帰りに由香ちゃんち寄ってもいい? 先生から由香ちゃんにプリントを届けるよう頼まれてるの」
熱で昨日から学校を休んでる由香ちゃんは、家も近くで幼稚園の頃からの親友だ。
「もっちろーん! さあ、早く帰ろ」
絵里ちゃんにランドセルを押されて、教室を出る。
あれ、あそこにいるの宮地くんかな。窓越しに見える宮地くんは職員室の前でうろうろしている。いったい何をしているのだろう。
「ねえ、絵里ちゃん。あそこにいるの宮地くんじゃない?」
「あ、ほんとだ。――おーい、宮地くん、やっほー!」
絵里ちゃんが窓を開けて隣の校舎に大声で声かける。宮地くんは一瞬こっちを見たがすぐに顔を逸らした。
「あーあ、どうしたら仲良くしてくれるんだろうね」
じゃ、行こっか、と絵里ちゃんに手を引かれて廊下を進んで学校を出る。
校庭や町の桜は昨日の雨でもう半分以上花が落ちてしまっている。もうすぐ五月、
帰り道、歩いていると、絵里ちゃんが「ねえ、知ってる?」と話しかけてきた。
「最近ね、学校で噂になってるんだよ」
「何が?」
ふふふ、と絵里ちゃんが肩を揺らして不敵に笑う。
「実はね……最近、出るんだって」
「だから何が?」
うーん、じれったい。こういう噂好きなところは絵里ちゃんと由香ちゃん気が合うんだよなあ。絵里ちゃんは私にくるりと背を向けて声を潜める。
「それはね……」
バッと振り向いて両手をだらりとさせた。それはいわゆる、お化けのポーズ。
絵里ちゃんはそのかわいらしい顔を精一杯ひきつらせておどろおどろしい顔を作って言った。
「放課後にね、教室に宿題を忘れちゃって取りに行った子がいてね。その子ね、見ちゃったんだって。――教室でその子の机を漁る化け物を!」
ば、化け物……? 私の反応に満足したのか、絵里ちゃんはにっこり。おそるおそる聞いてみる。
「それ、どうなったの……?」
人差し指を顎に当て、絵里ちゃんは首をかしげる。
「さあ? わかんない」
「わかんないの?」
「だって、噂を聞いただけなんだもん。その続きは知らなーい!」
そんな無責任な。ちゃんと教えてくれないと気になって眠れなくなっちゃうよ。
絵里ちゃんは、突然ハッとした顔をして私を拝むように手を合わせる。
「ごめん菜穂ちゃん! 私今日、ピアノのレッスンの日だった。先帰るから、由香ちゃんによろしく!」
そう言うと嵐のごとく絵里ちゃんは鈴をリンリン鳴らしながら行ってしまった。ピンクハリケーン。由香ちゃんならそう言って鼻で笑うだろう。
一人取り残された私は由香ちゃんちへ向かった。
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