魔法少年は歌いたい

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 おばあちゃんは決まりに悪そうに眉を寄せてそう言うと、突然ぱちんと手を叩いて明るい声で「さあ」ときりだした。 「難しい話は一旦終わり。完全に冷めないうちに早くお食べなさい。――坊ちゃん、何食事中に立ち上がっているんですか! ばあやのスパゲティが食べられないとでもいうんですか!」  大きな声で二階に向けてそう呼びかけると、部屋中に響くくらい大きな声で「ばあやが片付けろって言ったんだろ」と宮地くん。私たちがまたスパゲティをくるくるをフォークで巻いていると宮地くんがやってくる前におばあちゃんが私にウインクをして囁いた。 「坊ちゃんは少しぶっきらぼうなところがありますが、どうか仲良くしてあげて下さいね」  それから宮地くんと私がスパゲティを食べていると、店の呼び鈴が鳴っておばあちゃんはそっちの方へ行ってしまった。平らげたお皿をシンクきれいに洗うと、宮地くんが二回に来るようにと私を静かに手招いた。  二階のその部屋はあまり広くはなかったけれどしっかりと整理整頓されていた。壁にずらりと並ぶ本はどれも難しそう。本棚を眺めていると一つ気になるものがあった。それは端っこにちょこんと座らされている大きなクマのぬいぐるみ。おそらく私の背の半分はあるだろう。少しくたびれているそのぬいぐるみは宮地くんのお気に入りかもしれない。おばあちゃんは宮地くんのことをぶっきらぼうだと言っていたけれど、かわいいところもあるじゃないか。そう思うと面白くて、クスッと笑ってしまった。そんな私を宮地くんはしばらくの間不思議そうに見ていたけれど、やがて何か思い出したというように突然せわしく動き出すと、彼の机から綺麗に整えられた木製の棒を取り出して私に渡した。何だろうと思ってそれをしげしげと眺めていると、宮地くんは唐突に切り出した。 「全部聞いていたぞ、お前とばあやの会話。お前、特別な魔力を持ってるんだってな。それのおかげで魔法の効果を弱めることができるとか」  まあ、なんということか。 「盗み聞きとか、いやらしいよ」 「……うるさいな、そういう話じゃない。いいか、ばあやはあくまでお前の力は「魔法の効果を弱める」ものだと言った。つまりだ、完全に無効にできるわけじゃない」  それの何が違うのか。首をひねって次の言葉を待つ。そんな私を満足げにみて、宮地くんはしたり顔で言った。 「完全になんの魔法も効かないってならもうお手上げだったが、弱めるだけならいくらでもやり方がある。今までお前に魔法が効かなかったのは弱い魔法だったからだ。ならばより効果の強い魔法なら? 何が言いたいかわかるよな」  宮地くんはいつの間にか杖を構えてフッフッフとまるで悪役のように不敵に笑った。
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