魔法少年は歌いたい

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「『私のヨーテイは宮地くんが私の友達になってくれること』」  あまり私が迷わなかったことに驚いたのか、宮地くんは一瞬目を見開いて、そしてすぐにまた澄ました顔に戻って魔法の続きを唱えた。 「『これは絶対の真理。名はリン・パラディフィールドと桜井菜穂。今ここに契りを交わす』」  部屋はにわかに光で満たされた。晴れた春の陽のような、温かくて優しい光。お互いの手の甲に浮かんでいた紋様はスッと手に溶け込むと、そのまま見えなくなってしまった。周りをまわっていた光輪はゆっくりと狭まって、私たちの体に触れるとスッと消えた。部屋のすべてが元通りになると、なぜか心がふわふわとするような、不思議な感覚に包まれる。それから、さっきよりもやけに左手に握る木の棒が手になじむ。まるで何度もそれを振ってきたかのような、何度も使ってきたかのような。  宮地くんも体に何か違和感を覚えているのか、手を胸に当ててしばらくの間黙っていた。そしておもむろに私の方に向いて言った。 「俺に睡眠魔法をかけてみてくれ」  一体いきなり何を言い出すのか。何でそんなことをしないといけないのか、そもそもどうやって魔法を使えというのか。私がまごまごとしていると宮地くんが私に言った。 「もう気が付いていると思うが、俺が渡したその棒は昔使っていたホシノキ製の魔法の杖だ。俺が使っている杖みたいに跨って空を飛んだりはできないけど、それ以外の魔法なら、契約を結んだ今のお前なら使えるはず。逆に俺はお前みたいに魔法が効かなくなっているはずだ」  それを試したい、そう言って私が杖を振るのを待っている。そうは言われても、一体どのようにすればいいのか。とりあえず杖を構えて宮地くんに向ける。 「『微睡み、溶ける。聞こえる歌は、羊を追って、夜の闇』」  唱えると同時に杖の先が桜色に淡く光った。出来た。全く自分が何を言ったのかよくわからないけれど、口から魔法の言葉がすらすらと出て、胸の奥から何かが杖を伝って外へ出ていく。そしてどこからともなく梅紫色の煙が現れた。毛利先生を眠らせた時と同じだ。宮地くんは自分からその煙を吸いに行くと、ゴホゴホとむせて咳き込んだ。けれど一向に眠りそうにない。 「……よし、とりあえず成功したみたいだな。お前は魔法が使えたし、俺は魔法が効かなくなってた。契約完了だ」
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