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魔法界? 貴族? 突飛な話で驚きが隠せない。名前が違うのはなんとなくそんな気はしていたけれど、まさかそこまでスケールの大きい話だとは。
「ばあやのように魔法界からこっちに来る魔法使いは結構いるみたいだが、いずれも世界の行き来以外で魔法を使うことは禁じられている。けれど最近、こっちの世界で頻繁にアドフィーらしき存在の報告がされていることが判明した。アドフィーは魔法使いにしか作れないし、そもそも作ること自体が魔法界では罪とされている。俺はその調査と原因打破のため、王様から送られてきたんだ」
私とほとんど年が変わらないはずなのに、宮地くん、よっぽどその王様とやらに信用されているのだろうか。知らない世界に一人送り出されるなんて、なんだか無茶苦茶な話だ。
宮地くんは続けて何か言おうと口を動かしたが、なぜか口ごもって途中で止めた。
「……唐突にこんなこと言われても困るか。悪いが、どうしても菜穂には手伝ってもらいたい。正直魔法界も信用ならない。俺が信用できるのはばあやとお前だけなんだ」
そこまで話すと、宮地くんは電池が切れたようにその場に倒れてしまった。私は大慌てで様子を見ると、宮地くんは安らかな寝息を立ててすやすや眠っていた。一体どうしたのかとおろおろしているとおばあちゃんがタイミングよく部屋に入ってきた。
「ああ、やっぱり途中で力尽きてしまいましたか。大丈夫ですよ、命に別状はありません。この二日間何度も魔法を使っていましたから、その疲れが出たのでしょうね。ナホちゃん、今日はどうもありがとう。本当はもっといろいろと話さないといけないことがあるでしょうけど、それはきっと坊ちゃんが自分でいつか言うでしょう。今日はもう遅いですから、おかえりなさい」
おばあちゃんは宮地くんをおぶると私ににっこりとほほ笑んだ。
「そうそう、その杖は持って帰りなさい。坊ちゃんもおそらくそのつもりでナホちゃんに渡したのでしょうから。それじゃあ、気を付けておかえりね」
一体どこから聞いていたのだろう。おばあちゃんは全てお見通しだというようにホホホと笑って宮地くんをベッドに横たえた。この場で私に出来ることはきっとないだろう。私はおばあちゃんに手を振ってその場を後にした。
帰り道、今日あった様々なことが頭の中でグルグルと回る。古時計のアドフィー、私の体質と魔法、宮地くんとの約束と魔法界……どれもこれも同じくらい衝撃的だったけれど、一番私を悩ませているのは――
「おかえりなさい、菜穂」
ドアを開けた途端キッチンからその声が届く。
「ただいま、お母さん」
「駄菓子屋のおばあちゃんから電話あったわ。スパゲッティをご馳走になったそうね」
手を洗ってキッチンに行くとビーフシチューの香ばしいにおいが漂う。
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