魔法少年は忘れたい

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魔法少年は忘れたい

~夜にカラスが飛んできて~  駄菓子屋二階の子供部屋。少年がすやすやと寝息を立てている横で、シーツをかける老婦人。 「全く、いつの間に私の本を盗み見ていたのかしら。契約魔法なんて、この歳でやることじゃないでしょうに。坊ちゃんにはいつも驚かされるわ」  優しい笑顔を浮かべてはいるものの、その声はどこか険しい様子だった。 「けれど、坊ちゃんは最後まで本を読まなかったのねぇ。それとも大したことだと思わなかったのかしら……坊ちゃんとナホちゃんがまだ子供でよかったわ」  老婦人がガラリと窓を開けてピューっと口笛を一吹きするとカラスが一羽、部屋に入り込む。そして慣れた様子で左手をのばすとカラスはそこに導かれるようにスッと停まった。老婦人はカラスの右足にくくりつけられている鈴を受けとるとその場でリンリンと軽くならした。音の余韻が消える前に老婦人は素早くポケットから杖を取り出すと、その先をカラスの頭に優しく当てて、朗々とカラスに命じた。 「ベル坊ちゃんに伝えなさい。『鈴が足りなくなった』と。それからこれも」  細く畳んだ紙をカラスの左足に右手だけで器用に結ぶと、老婦人はカラスを投げるようにして外へと放った。まっすぐに空のど真ん中へ飛び去るのを確認して、窓を閉める。最後にまだ少年がすやすやと寝息をたてているのを確認して、老婦人は再び微笑んだ。 「今はしっかりとおやすみなさい、リン坊ちゃん。これからさらに忙しくなりますから」
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