魔法少年は忘れたい

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 急に聞きたいことと言われてもなあ。私が困っているとおばあちゃんが助け舟を出してくれた。 「坊ちゃん、先にナホちゃんに今まで集めた情報を共有した方がいいでしょう。ほら、いつからこっちに来て今まで何をしていたのかとか」  おばあちゃんはそう言うとホホホと笑ってオレンジジュースを一口。大人なら平気かなと思ったらやっぱりおばあちゃんも顔をしかめて苦い顔。そのあと「やっぱりこのジュースはゼリーとかにしなきゃだめね」とつぶやいた。  宮地くんはうーんとしばらく唸って、それもそうかと説明を始めた。 「俺がこっちに来たのはお前の学校に転校する一週間くらい前だ。ばあやの元を訪ねた後、俺はまず鈴を探すことから始めた」  鈴? 私が首をかしげたのと同時に、おばあちゃんがどこからか銀色の鈴を取り出して私に見せてくれた。 「一見ただの鈴に見えるだろうが、中に魔法一回分の魔力が込められている。音を鳴らすことで、魔力を持たないただの人間や、ばあやのように魔力を失った人間も簡単な魔法を使うことができる。魔法界では一部の魔法が使えない人を助けるためのアイテムとして重宝されているものだ」  なるほど、魔法が使えない人にとっての車椅子や補聴器みたいなものかな。 「その鈴をどうしてこっちに来てから探してたの?」  自然に質問したつもりだったのに、なぜかその場が凍り付く。おばあちゃんはただ黙って宮地くんの言葉を待ち、宮地くんはどこか言いにくそうに顔をしかめている。なんだかきまりが悪くなったので、私も苦い顔をしようとオレンジジュースを一気に飲み干してむせてしまった。 「……ハハ、何馬鹿なことやってんだよ。お前まで暗くなる必要なんてない。……まあ、話すと長くなるが、とある事故があって、魔法の鈴がこっちの世界に落っこちてしまったんだ。しかも通常の魔法の鈴よりも、たくさんの魔力が詰まった強力な鈴が。鈴がこっちに来る前からアドフィーの目撃情報はあったんだが、アドフィーを作っている奴がその鈴を拾ったとしたら大変なことになるだろう? そう思って先に回収しようとしたんだが――」  ちりんちりん、とおばあちゃんが鈴を振って音を鳴らした。そのまま魔法を唱え始める。 「『照らせ、常闇。灯せ、瞳を』」  おばあちゃんが握る杖の先が赤く灯った。蠟燭の火のように温かくて、けれど蛍光灯のようにはっきりとした不思議な光。たしか灯火魔法とか言った魔法だったと思う。 「このように魔法を使った後の魔法の鈴は、見た目通りただの鈴に戻ってしまう。だから坊ちゃんも探すのに苦労しまして、結局諦めてアドフィーの情報集めを始めたんですよね」  おばあちゃんは杖の先の明かりを消すと、私に鈴を手渡した。ためしにちりんちりんと音を鳴らしてみたが、おばあちゃんの言った通り、ただの鈴に戻っている。 「そうだ。結局鈴について何の手掛かりも得られなかった俺は緑ヶ丘小学校付近で多くアドフィーらしきものが目撃されていることを知り、侵入することにしたんだ。あとはお前が知る通り。忘れ物のアドフィーを探して、浄化しようとしてお前に会った」  まだ一週間もたっていないのに、結構前のことのように感じるな。懐かしい。 「さあ、俺の話はこれくらいでいいだろう。何か聞きたいこととか、あるいは話を聞いて何か気になることとか――」 「ねぇーっ!! 誰かいないのー?」  突然外からよく聞きなれた女の子の声。間違いない、絵里ちゃんだ。
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