魔法少年は忘れたい

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~ぬいぐるみ探しに行こう~  絵里ちゃんが歩くのと一緒にランドセルにつけた鈴がリンリンと音を鳴らす。鈴といえば……宮地くんも同じことを考えていたようで絵里ちゃんに話しかける。 「その鈴、一体いつからつけているんだ?」 「あら、私のことが気になるの?」  絵里ちゃんはくすくすと笑って宮地くんをからかう。けれど全く気にも留めない様子で宮地くんがさらに追及する。 「ごまかすな。別に変なこと聞いてるわけじゃないだろう」  宮地くんは絵里ちゃんの鈴が魔法の鈴かどうか調べたいんだろう。  あれ、けど絵里ちゃんの鈴って確か……ふと思い出して口に出してしまった。 「その鈴、たしか一年生の時からつけているよね」 「ええ、絵里ちゃんの鈴は私も昔から何度も見ていましたよ」  おばあちゃんも宮地くんにそう言って微笑む。宮地くんは小声で「知ってるなら先に言え」と言って私の横腹をこずいた。  そうこうしている間についた博己くんの家。表札には内田と書いてある。ピンポーンとおばあちゃんがチャイムを押すと、しばらくして宮地くんと同じくらいの背の男の子が現れた。 「あ、駄菓子屋のおばあちゃんと絵里ちゃん。どうしたの?」  この子が博己くんだろう。寝ぐせなのか横の髪が外に跳ねている。 「こんにちわ、博己くん。あれからぬいぐるみは見つかったかい?」  おばあちゃんがそう聞くと博己くんは首を横に振った。 「そっか、実を言うとね、絵里ちゃんのぬいぐるみもなくなっちゃったようで、博己くんのと一緒に探してみようってことになったんだよ。それで、何か手掛かりになると思うから、博己くんが見たぬいぐるみの家での話を皆にも聞かせてくれないかい」  博己くんは私たちを一通り見ると、今度は首を縦に振って了承した。 「あれはね、僕が学校からちょうど家に帰ったときでね――」  博己くんの両親は共働きで、いつも一番に家に帰るのは博己くんだという。その日も一番に家に帰ってきた博己くんは自分で家の鍵を開けようと鍵穴に鍵を刺したとき、とある違和感に気が付いた。すでに鍵が開いていたのだ。  誰かが鍵をかけ忘れたのかな、そう思いながら家の中に入ると二階の方からがさごそと音が聞こえた。強盗か、そう直感した博己くんはおそるおそる二階へ。どうやら音が聞こえるのは自分の部屋からだとわかった博己くんはドアノブに手をかけて開こうとしたところ、中でチリンと鈴の音がして、すぐにガラガラという窓の開く音がしたという。もうどうしようもなく気になった博己くんは一気にドアを開けると、なんと部屋から博己くんが大事にしていたクマのぬいぐるみが窓の外へ飛び出ようとしていた。急いで窓際まで行くと、もうぬいぐるみは外をすたすたと歩いてどこかへ行ってしまった。そのあとを一生懸命追おうとしたが、博己くんが外に出た時にはもうぬいぐるみの姿は見えなくなっていたのだという。 「――それで、まだお母さんもお父さんも帰ってこない時間だったから、駄菓子屋のおばあちゃんのところに行ったんだ。ちょうどクマくんが走っていったのも駄菓子屋の方だったし、もしかしたら知っているかもと思って」 「いや、先に部屋覗く前に大人を呼べよ。ケーサツ? とかさ」  宮地くんがぶっきらぼうな声で博己くんに言う。博己くんはどこかきまり悪そうに「気になって、つい」と頭をかいた。 「それはともかく、本当にぬいぐるみが自分で歩いていたの?」  私が博己くんに問う。 「嘘じゃない。本当に見たんだ」  叫ぶように言う。疑いたいわけじゃないけど、普通ではありえない現象だ。それこそ魔法とかじゃないとぬいぐるみは歩かない。 「アドフィー、だろうな」  宮地くんが私だけに聞こえるくらいの声でつぶやく。 「ちなみにどんなぬいぐるみなの?」 「僕が生まれた時と同じ時にお母さんが買った大切なぬいぐるみなんだ。大きさは僕のおへそくらいで、首に赤いリボンをつけてる」  割と大きいサイズだな。それが歩いているなら結構目立ちそうだけど。 「どこで売っていたぬいぐるみか、わかる?」  今まで黙っていた絵里ちゃんが急に前に出て博己くんに聞いた。博己くんは「うーん」としばらく考えた後、手をポンと叩いて教えてくれた。 「商店街の中島人形店。昔お母さんにそう教えてもらったんだった」
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