魔法少年は忘れたい

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~絵里ちゃんの忘れ物~  博己くんのお母さんが働いているというクリーニング屋に向かう途中、絵里ちゃんが唐突に宮地くんに言った。 「ねぇ、私さっきの店に忘れ物しちゃった。あなた取って来てくれない?」  宮地くんは怪訝そうな顔をして「なんで俺が?」と聞く。 「私たちより足が速いでしょ? いいじゃない、行ってきて」 「……自分で行けよ。どんな忘れ物かお前が一番わかってるんだから」  少しイライラした様子で宮地くんはさっきよりも速足で行こうとする。絵里ちゃんはクスクス笑って自身のランドセルについてある鈴を指さして言った。 「これによく似た鈴を忘れてきちゃったの。銀色の、普通に振っても音がならない不思議な鈴を。あなたもよく知っているんじゃない?」  そこで宮地くんが立ち止まった。顔を強張らせて絵里ちゃんに振り向く。その様子が面白かったのか絵里ちゃんはさらに大きな声で笑った。 「ほら、早く行かないと。大丈夫、別にこの子に何かしようってわけじゃないから」  手をパンと叩いて宮地くんを急かす。宮地くんは何か言いたげに絵里ちゃんを見ていたが、私にぐっと近づくと耳元で絵里ちゃんに聞かれないよう静かに囁いた。 「気をつけろ。それから、逃がすなよ」  それだけ言うと宮地くんは中島人形店の方へ走って行った。残された私は気づかれないように魔法の杖の入ったポケットに手を入れる。正直、私もわかってた。目の前の絵里ちゃんが、私の知っている絵里ちゃんじゃないってことは。  私が警戒していることを知ってか、(にせ)絵里ちゃんは優しく微笑んだ。 「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。ただお話がしたかっただけ。そんなに私、あの子と違う?」  あの子って、たぶん本物の絵里ちゃんのことだろう。偽絵里ちゃんは自身の姿を体をくねくねさせながら確認する。その様子があまりに無防備だったので私はつい警戒するのをやめてしまった。 「見た目は本当にそっくり。ああけど、ランドセルを背負ってるのはやっぱりおかしいかな。それと話し方とか性格とか、絵里ちゃんと全然違う」  絵里ちゃんはもっと……にぎやかな女の子だ。それに絵里ちゃんは宮地くんが魔法使いだって知らないから、間違っても『魔法少年』とは呼ばないだろう。 「ふーん、そう。見た目さえ似てたらいいってわけじゃないのね。難しいわ」  偽絵里ちゃんは私の右隣に並ぶと「歩きながら話しましょう」と私の腕を取って引っ張った。杖が入っているのは左のポケット。いつでも取り出せるよう気を付けながら、私は首を縦に振って頷いた。
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