魔法少年は忘れたい

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「絵里ちゃんは無事なの? えっと、あなたじゃなくて、本物の」  触れた偽絵里ちゃんの手は驚くほどに冷たい。まるで生きていないような……嫌なことを考えるのは止めよう。 「大丈夫。私は見た目が一緒なだけ――」  今はね、と小さな声でため息をつくように絵里ちゃんは付け加えて言った。 「他に聞きたいことはある?」  聞きたいことはいっぱいある。どうして絵里ちゃんの姿なのか。そもそも一体何者なのか。何が目的なのか。それからそれから――  私が次の質問をする前に偽絵里ちゃんが一人で話し出した。どこか大人びた、儚げな様子で、歩くペースを落としながら。 「私はいっぱいあるわ。あなたのこと、魔法少年のこと。それから――」  そう言って彼女はさっき中島くんのお母さんから貰った飴を見つめて立ち止まった。リンゴ味ののど飴。それが一体どうしたのだろう。  偽絵里ちゃんは飴の袋をぺりっと開けて中身の飴を口に入れた。 「甘い。これが甘いっていう味なのね。フフッ、嫌いじゃないわ」  まるで初めて甘いものを食べるかのような感想。顔を綻ばして頬に手を当てる偽絵里ちゃんは今日一番子供らしく見えた。  宮地くんは気をつけろと言っていたけれど、私にはどうもこの偽絵里ちゃんが悪い子には思えない。いや、不思議なことは多いけれど。  絵里ちゃんは私の方に向き直って、二ッと笑った。 「今回のアドフィーはね、私が用意したの。昨日街を歩いていたら、たまたまあの子の声が聞こえたから、特別にね。――私、あなたのこと結構気に入っているの。どうか今回もアドフィーの声を聴いてあげて。あの子、とっても主人想いのいい子みたいだから」  ちょっと待って、今なんて言った? アドフィーを用意した?  「また会いましょう、桜の子。魔法少年によろしくね」 「待って――」  私が手を伸ばした瞬間、偽絵里ちゃんは突然光に包まれて姿を消した。残ったのは彼女がランドセルにつけていた鈴の音の余韻だけ。  虚空を掴んだ右手を見て、その場に立ち尽くす。そのあとすぐに宮地くんが戻ってきて、私は今あったことを話した。
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