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~お昼のクリーニング店~
白兎クリーニング。それが博己くんのお母さんの働いているクリーニング屋さんの名前だった。中に入ろうと自動ドアの前に立つけれど、どういうわけか開かない。おかしいと思ってガラス越しに中をのぞくと真っ暗で誰もいない。宮地くんも不審に思ったのか宮地くんが自動ドアにそっと触れると、そのまま力づくでドアをこじ開け始めた。
「ちょっと、宮地くん」
「手伝え。うっすらとだが結界が張られている。中で何か起こっているに違いない」
結界、つまりバリアみたいなものか。そんなの張れるなんて魔法使いかアドフィーだけだ。もしかして店の奥でアドフィーが暴れているのかも。
しばらく二人でドアをこじ開けようと奮闘していたけれど、自動ドアはうんともすんとも言ってくれない。疲れ切った私たちはハァハァと息を切らしてその場でへたり込んだ。こんなの子供の力じゃ無理だよ。
「どうしたの? うちに何か用?」
突然後ろからエプロン姿の女の人が声をかけてきた。エプロンには『白兎クリーニング』と文字が入っている。
「もしかして、博己くんのお母さん?」
なんとなく博己くんと目元のあたりが似ている気がして、思わずそう聞いてしまった。その人は驚いたようで手を口に当てて答えた。
「ええ、そうだけど…… あ、もしかして博己のお友達?」
友達、かどうかわからないけどなんとなくうんと頷いてしまった。
「博己くんのぬいぐるみが無くなったって言ってたから、探しているの。それで、おばさんがぬいぐるみをきれいにするために持ち出したのかも、と思ってここに」
そう言って今も開かない自動ドアの方を見ると博己くんのお母さんも困った顔をして言った。
「そうだったの。ありがとう。けど、ぬいぐるみを持ち出したのは私じゃないの。それに今朝からどういうわけかこのドアが開かなくって。中にあるかもわからないわ」
今朝から開かない?
私と同じことを思ったのか、今度は宮地くんが博己くんのお母さんに聞いた。
「今朝って一体いつからだ」
「八時過ぎよ。私がいつもここに来る時間。同僚の佐々木さんと一緒に裏口の鍵を開けようとしたのだけどダメだったから、今度は自動ドアの方の鍵を開けようとしたのだけど、全然開く気配がしないの。それで鍵屋さんに開けてもらうよう頼んだんだけど、理由はわからないけど開かないみたいで」
はぁ、とため息をついて博己くんのお母さんはうつむいてしまった。原因は魔法だってわかっているけど、それを説明するわけにもいくまい。私が何と声を掛けたらいいか迷っていると、宮地くんが私の腕をつかんで博己くんのお母さんに言った。
「そうか、わかった。別のとこを探してみる」
「ええ、博己のためにどうもありがとう。どうかよろしくね」
そのまま宮地くんは私の手を引いてクリーニング屋から離れるとすぐそこの曲がり角で曲がって立ち止まった。
「一体どうしたの?」
何を考えているのか、宮地くんは顎に手を当てて静止。なんとなく邪魔してはいけない気がしたので、私も隣に並んで宮地くんの真似をしてみた。うーむ、全く分からない。
しばらくして宮地くんは不意に顔を上げると、私に向かって言った。
「結婚は夜だ」
け、結婚? そんな、いきなりそんなことを言われても。
「間違えた! 『決行』だ。思い切って実行するという意味の方だ!」
顔を真っ赤にして宮地くんが訂正する。まあ、わかってはいたけれど。
「それで、一体何をするの?」
「ほとんどはその時になって説明するが…… 端的に言うと強盗だな」
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