魔法少年は忘れたい

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~夜のクリーニング店~  空には星がきらきら瞬いて、お母さんはもうきっと眠っているころだろう。歌の通りならおもちゃが箱を飛び出して踊りだしているかもしれない。……いや、今それはシャレにならないよね。  こんこん、と窓の外から音がして、私はカーテンを開けた。外にいるのはもちろん、大きくなった星のステッキにまたがっている宮地くん。私はすぐに窓を開けて彼の後ろに飛び乗ろうとした。けれど寸前のところで宮地くんが「ちょっと待て」と一言。 「お前、その格好で行くつもりかよ」  そう言われて自分の姿をまわり見る。パジャマのままだったのを忘れてた。  全ての準備が整って、二人で夜の空を白兎クリーニングへとひとっ飛び。昼間に宮地くんが言った「端的に言うと強盗」という言葉には嘘はなく、今回の作戦は夜にこっそり忍び込んでアドフィーを浄化しようというものだった。白兎クリーニングに到着すると自動ドアの前で宮地くんが静かに魔法を唱えだした。 「『実を言うとわからない。これがなんなのかわからない。なんとなくだけどハンマーにも見える』」  星の飾りのついたスティックをまっすぐに見つめてそう言う、いや、唱える宮地くん。何も知らない人が見たら頭でもおかしくなったんじゃないかと思われそうであるが、これはれっきとした変形魔法。みるみるうちにスティックが大きなハンマーに姿を変えた。……え、ハンマー? 「ちょっと宮地く――」  私の声も届かず、宮地くんは気合いを入れてフンッとそのハンマーを自動ドアに向けて一振りすると、ためらいなくガラスを粉砕した。間もなく、ウーウーとサイレンがそこら中にやかましく鳴り響く。  宮地くんはなんだなんだと目を白黒させて辺りをキョロキョロ。私は頭を押さえながらため息交じりに宮地くんに教えてあげた。 「あのね、宮地くん。あんな風にガラスをたたき割ると今時どこだって防犯システムの一つや二つ発動するんだよ」 「防犯システムってなんだ?」  それはよくわからないけど。たぶん警察とか来るのかな、わからないけど。  なんとなくまずいことになったと悟った宮地くんは持っていたハンマーをもとの杖に戻して新たに魔法を唱え直した。 「『澄ませ、その心。遡れ、その心。始まりは一つの心だけ』」
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