魔法少年は忘れたい

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 あれ、これは確か浄化魔法のはず。一体何をするつもりなのだろうか。  唱えながら宮地くんは私の腕を掴むとグッと引っ張ってクリーニング店内へと足を踏み入れた。私も割れたガラスを踏んでしまわないように後に続く。 「『重ねて謳う』。『知らぬ、知らぬ、お前など知らぬ。壊れたことなど誰も知らぬ』」  聞いたことのないフレーズとともに続けて唱えたのは物などを直す修復魔法。唱え終わった宮地くんがスティックを一振りすると、小さな青色が蝶のようにふわふわと飛んで店の中を舞う。やがてそれは店の真ん中で独りでに弾けると、昼間のような温かい空色になって辺りに広がった。眩しくって目を閉じていると、いつの間にかやかましいサイレンの音は鳴りやんで、割れたはずのガラスも元通り何事もなかったかのように閉まったままの自動ドアに戻っていた。説明を求めて宮地くんを見ると、どっと疲れた顔で眠たそうにあくびをしていた。 「うん? ああ、浄化魔法は次に唱える魔法の効果を強化することができるんだ。今回の場合で言うなら、本来目の前のガラスのドアくらいしか直せない修復魔法を店全体を元に戻すくらいに強化した」  なるほど、魔法ってやはり便利だなぁ。この前お母さんのコップを割った時にも魔法が使えればよかったのに。  宮地くんはもう一度大きくあくびをすると、頭をぼりぼり掻いてため息をついた。 「あー、というかやっぱりこれは疲れるな。全身が怠い……」 「大丈夫?」 「まぁ、浄化魔法はもう一回はうてるから気にするな。それより――」  不意に店の奥の方を睨む宮地くん。一体何があるのかは暗くてよくわからないけれど、ガサゴソと何かがうごめく音がしている。 「おい、火をつけろ」  え。 「燃やすの?」 「違う、明かりを灯せって意味だ。灯火魔法、お前も使えるだろ」  そっちか。自動ドアをたたき割った後は次は店ごと燃やすのかとひやひやしてしまった。言われるまま、魔法を唱えて杖の先を赤く灯した。淡く小さな光なのに、店の先の方まで見えるくらいに明るい。明るくなった店内を見渡しても特に荒らされているようなことはなく、異変は無いように感じた。宮地くんは特に近くを調べないままごそごそと音のする店の奥の方へと迷わず進む。
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