魔法少年は忘れたい

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 さっき教えてもらったばかりの浄化魔法を使った魔法の強化。続けて唱えたのは灯火魔法。杖の先に赤い光が灯ると光だけがまっすぐに飛んで大熊の目の前でぴったり止まった。大熊がそれを見て立ち止まったのを確認して、急いで宮地くんを引っ張って部屋から逃げる。灯火魔法の光にはアドフィーを引き付ける効果がある。その効果を強化した灯火魔法なら……どうか予想通りになってと願いながら、大熊のすぐ横を通り抜けた。その直後、背後で赤色の閃光。ドシンと大きな音がして大熊がその場で横になって倒れた。目を回しているのか、気絶したのかわからないが、これで少しは時間が稼げるはず。部屋最奥の裏口の鍵を開け、力任せにドアを開いて外に出た。結界?とやらにひっかかったらどうしようかと思ったけれど、内側からなら問題なく開くようだ。外に出てすぐにドアを閉じる。  ふぅ、と一息ついて、その場にへちゃりと座りこんだ。さんざんひこずった宮地くんはいつの間にか気を失ったようで、私によっかかったまま苦い顔をして眠っている。一体どうしたんだろう。 「……めん。……んなさい」  寝言なのか、はっきりとしない活舌で宮地くんが呟いた。聞き逃さないよう耳をよく澄まして次の言葉を待った。 「……ごめん。ごめんなさい……テディ」  言葉と同時に宮地くんは一層苦しそうに「うぅ……」と唸って私を抱きしめる力が少し強くなった。とはいえ、全然痛くないはずなのに、ひどく胸が締め付けられるように痛い。 「え……?」  見知らぬ景色が見え始めた。いや、正確には見えているわけではないのだろう。心の中に、知らない思い出が流れ込んできているのだ。天蓋付きのベッドに深紅のカーペット。全く知らない豪華な部屋の隅っこで、どこか見覚えのある黒髪の少年がクマのぬいぐるみを抱いて泣いていた。これって……宮地くんの記憶?
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