魔法少年は忘れたい

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「ああ、やっぱり様子を見に来て正解だったね。アドフィーはこの中かな?」  建物の中を指さしてどこか胡散臭い笑顔でにっこりと微笑む。アドフィーを知っているということはこの人も魔法を知っているということだろうか。 「だ、誰?」  宮地くんの肩をゆすり何とか起こそうとするも、顔をしかめたまま目を開かない。 「大丈夫ダイジョウブ。あやしくないよ」  あやしい人だ。由香ちゃんがあやしい人はみんなこう言うから気をつけろって言っていた気がする。 「俺はねぇ……うーん、とりあえず(しょう)って呼んでもらおうかな、鈴に倣って。君はリンの契約相手だね。よろしく」  ショウと名乗った青年は私に向かって手を差し出してきた。どうやら握手をしたいみたい。悪い人ではないみたい?  恐る恐る差し出された手を握る。大きくて温かい。 「うん、素直でいい子だね。魔力にもよく表れている。……さて、少しリンから離れてくれる?」  言われた通り少し離れると、ショウは杖を構えて魔法を唱え始めた。 「『人形と踊ろう。テーブルの上で、ティーカップの周りで』」  綺麗な声で唱えられる知らない魔法。ショウが杖を振ると宮地くんが淡く光り輝き、見る見るうちに体が縮んでいく。ついにはスズメくらいの大きさになったしまった宮地くんをショウは片手でヒョイっとつまみ上げると彼のジャケットの胸ポケットに入れた。頭だけ出ている宮地くんはおとぎ話に出てくる小人のよう。 「一体宮地くんに何をしたの?」  背中で杖を構えながら、上目遣いにショウに問う。ショウは私を落ち着かせようとしてか、なだめるように手を広げて笑顔で言った。 「大丈夫。ただ持ち運びやすくしただけだよ。アドフィーを浄化した後、ちゃんとばあやのところに送り届けるから安心して」  おばあちゃんのことも知っているなんて、本当に何者なんだろう。 「さぁアドフィーのところに行こう。俺が手助けするから、君はいつも通りにアドフィーを浄化して」  いつも通りと言われても、まだ三回目なんだけど。私がそう言ってしまう前に、ショウは裏口の扉を開け、にっこりと笑って私を中へと誘い込んだ。 ~ぬいぐるみとお話~  クリーニング店の中ではさっきの大熊、ではなくもとのぬいぐるみ姿に戻ったアドフィーが部屋の真ん中で相変わらずどこか寂しそうに俯いて座っていた。 「また来たの?」  こっちを向かずぬいぐるみが聞いてくる。 「お、なかなかに魔力量の高いアドフィーみたいだ。はっきりとしゃべれるのがその証拠だよ」  ショウが物珍しそうにしげしげとアドフィーを観察する。私はどうしたらいいのかわからずアドフィーとショウを交互に見た。けれどショウがにっこりと笑ったまま何もしようとしないのを確認して、私はアドフィーの方へと足を進める。 「また邪魔しに来たの?」 「ううん、ただお話がしたいだけだよ」  いつも通り、かはわからないけれど、偽絵里ちゃんに言われた通り、まずは話を聞いてみよう。私はアドフィーの目の前でしゃがんで、同じ目線になるように努めた。 「お話?」  ぬいぐるみは俯いたままそう聞いてくる。 「そう。どうしてあなたはこんなことをしているの? 博己くん、探していたよ」  博己くんの名前を聞いて、ぬいぐるみはピクリと動いた。さっきは気が付かなかったけれど、首に巻いているリボンに「ひろき」と平仮名で名前が入っている。 「博己くんが本当に隣でいてほしいのは僕じゃないんだ」  相変わらず俯いたままのアドフィーはぽつりとそう声を漏らす。 「博己くんはいつも家で一人ぼっち。お父さんもお母さんもお仕事で忙しいから。博己くんはいつも仕方ないって言いながら、けれどいつも寂しいって心のどこかで思ってる」
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