魔法少年は忘れたい

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 真夜中の静けさがいやに冷たく感じる。アドフィーの高い声がツンと響く。 「だから僕がお母さんの仕事を邪魔するの。そうすれば博己くんとお母さんは一緒にいられる。いつかはお父さんも同じようにするの。そうすればみんな一緒。博己くんは寂しくない」  偽絵里ちゃんが言った通り、たしかに博己くん想いの良いぬいぐるみのようだ。  いや、今まで会ってきたアドフィーはどれも悪い物なんてなかった。落とし物になってしまった由香ちゃんのハンカチも、昔からずっと学校にある古時計も。みんな元はただの物。良いとか悪いとか、そもそもが間違いなんだ。  私は俯いたままのぬいぐるみに聞いた。 「あなたは寂しくないの?」  ハンカチのアドフィーが言ってた。『一人ぼっちでいることは、寂しい』って。私もそう。博己くん、そしてきっと宮地くんがそうだったように、きっと目の前のぬいぐるみだって、一人でいることは耐えられないに決まってる。  ぬいぐるみは俯いたまま何も言わない。 「博己くんね、あなたがいなくなって探してたんだよ。それで私達も一緒にあなたを探していたの。どうして探していたか、わかる?」  アドフィーは黙ったまま動かない。 「あなたがいないと寂しいからだよ。戻ってきてほしいから、探してるんだよ」  誰かの代わりに誰かがいなくなるなんて間違っている。私もお姉ちゃんやお父さんに帰ってきてほしいけれど、お母さんが代わりにいなくなるなんて嫌だもの。きっとそれは博己くんだってそう。お母さんとお父さんと本当はもっと一緒にいられるとしても、大事なぬいぐるみが代わりになくなってしまうなんて嫌なはずだ。 「でも、僕が戻っても博己くんは寂しいまま。何も変わらない」  アドフィーはついに顔をあげて言った。ぬいぐるみの顔は変わっていないはずなのに、なんとなく泣きそうになっているように見えた。  もう一声、何か一声伝えたい。アドフィーが言うことも最もだ。けれどぬいぐるみが仕事を邪魔したからと言って解決するわけでもないんだ。もとに戻るのが一番、いや、というより、この子が博己くんの隣にいること自体に意味があったはずなんだけど……伝えたかった何かは曖昧になってわからなくなってしまった。 「あなた、知らないのね」  聞きなれた可愛らしい声。クスクスと笑いながら現れたのはクルクル髪の女の子、絵里ちゃんだった。いや、この感じは偽絵里ちゃんだな。その証拠に今だってなぜかランドセルを背負っている。  咄嗟に後ろで傍観していたショウが私と偽絵里ちゃんの間に立って私を庇うように杖を構えた。 「どちら様で?」  ショウが偽絵里ちゃんに問う。ショウは相変わらずにっこりと笑ったままだったけれど同時に話しかけにくい圧のようなものを感じさせた。 「あら、レディに名を聞くときは先に名乗るものなんじゃなくて? まぁ、どうでもいいけど。それよりそこどいてよ。私が用があるのはそこのぬいぐるみと桜の子。あなたでも、ポケットに入った魔法少年でもないわ」  そう言って偽絵里ちゃんはシッシッと手でショウを払う。ショウは小さな声で私に伝えた。 「気をつけた方がいい。とんでもない魔力量だ。しかも人のものではないな……」 「だーかーら、退いてって言ってるでしょ。……ねぇ、そこのぬいぐるみさん。私があなたを動けるようにしてあげたこと、覚えてる? あの時私ね、こう思ったの。『こんなに主人のことを思っているのにどうして誰も報われないのかしら』って」  アドフィーは偽絵里ちゃんの方を向いて黙って聞いている。ショウもまた、杖を構えたまま動かない。 「けれど、それが間違いだったわ。私、あなたを作った人に会ってきたのよ。そこの桜の子と一緒に」
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