18人が本棚に入れています
本棚に追加
ショウがぬいぐるみの方へ手招きする。
「さっきは一体、アドフィーに何をしたの?」
氷漬けになった大熊が急にぬいぐるみになって、動けなくなる。しかも詠唱は『凍れ』や『奪え』と一言のみ。宮地くんの知識から探してみようとするも、まだ霧がかかってよく見えない。
ショウは顎に手を当てて首を傾げた。
「あれ、君とリンは知識と力の契約魔法を結んだって聞いたんだけどな。完全成功ではなかったということかな…… まあ、いいか。簡単に言うと、凍らせて、魔力を奪っただけだよ。魔力が無くなったからアドフィーは大きな体を維持することができなくなったし、動くこともできなくなった。けれど、アドフィーってことは変わってないから、いずれ魔力は回復するし、そうしたらまた動き出すよ」
凍らせて魔力を奪っただけって、さらっと言うけどよくわからない。よくわからないけど、ぬいぐるみを浄化しないといけない理由はわかった。浄化しないと、あの子は博己くんの元に帰れない。
杖を構えて、もう片方の手でぬいぐるみを撫でる。もう向こうの声も聞こえないけれど、私は笑顔で「いくよ」と声かけた。
「『澄ませ、その心。遡れ、その心。始まりは一つの心だけ』」
木製の杖の先に小さな青色の、ではなく桜色の球が浮かび出る。予想していた色と違って驚いたけれど、それの扱い方は宮地くんの記憶が教えてくれた。桜球を宙に弧を描くように動かして、ぬいぐるみに落とした。触れた瞬間、辺りが桜色に染められる。なんだこのピンクの空間。私も宮地くんみたいに空色がよかった。
私がげんなりしているとショウは呆けた顔で辺りを見回している。
桜色の時間が終わって、私はふうと一息ついた。これでたぶんアドフィーは浄化できたはず。私は床に倒れているぬいぐるみを抱き上げて、ショウに言った。
「これでいい?」
「ああ、お疲れさま。やっぱり君はいい魔力をしている。さっきのを見られなかったなんてリンも可哀そうだな」
ショウは胸ポケットに入っている宮地くんを人差し指で撫でた。
「そういえば、どうして宮地くんや私のことを知っているの?」
しかも宮地くんのこと、本名の方で呼んでいるし、魔法に詳しいし、なんとなく宮地くんに似ているし。けど、たしか宮地くんのお兄ちゃんは「ベル」って名前だったはずだしなぁ。
「それは、俺がリンの兄だからだね。手紙の聞いてない?」
お兄ちゃんだった。
「え、でもベルって名前なんじゃ?」
「あ、そうそう。魔法界での名前がそう。けどこっちではそう名乗るわけもいかないだろ? だからリンが鈴って名乗るように、俺も鍾って名乗ってみようかなって」
「なら最初からそう言ってよ!」
怒る私に対してケラケラと笑うショウ。
「さて、そろそろ行こうか。君をリンの代わりに送り届けないといけない。家まで案内してくれる?」
二人で外に出ると、相変わらず外は真っ暗。ヒューと冷たい、風が吹く。ふと気になってショウの胸ポケットを見つめた。
「宮地くんどうするの?」
ずっと小さいままの宮地くんはいつになったら元に戻るんだろう。それにまだ眠ったままだし。
「ん、心配?」
うん。胡散臭いから。
ショウはうーんと唸ってまたもや胡散臭い笑顔で提案した。
「じゃあ、一緒に行こうか。まだばあやは起きてるはずだし」
最初のコメントを投稿しよう!