魔法少年は忘れたい

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 ショウがぬいぐるみの方へ手招きする。 「さっきは一体、アドフィーに何をしたの?」  氷漬けになった大熊が急にぬいぐるみになって、動けなくなる。しかも詠唱は『凍れ』や『奪え』と一言のみ。宮地くんの知識から探してみようとするも、まだ霧がかかってよく見えない。  ショウは顎に手を当てて首を傾げた。 「あれ、君とリンは知識と力の契約魔法を結んだって聞いたんだけどな。完全成功ではなかったということかな…… まあ、いいか。簡単に言うと、凍らせて、魔力を奪っただけだよ。魔力が無くなったからアドフィーは大きな体を維持することができなくなったし、動くこともできなくなった。けれど、アドフィーってことは変わってないから、いずれ魔力は回復するし、そうしたらまた動き出すよ」  凍らせて魔力を奪っただけって、さらっと言うけどよくわからない。よくわからないけど、ぬいぐるみを浄化しないといけない理由はわかった。浄化しないと、あの子は博己くんの元に帰れない。  杖を構えて、もう片方の手でぬいぐるみを撫でる。もう向こうの声も聞こえないけれど、私は笑顔で「いくよ」と声かけた。 「『澄ませ、その心。遡れ、その心。始まりは一つの心だけ』」  木製の杖の先に小さな青色の、ではなく桜色の球が浮かび出る。予想していた色と違って驚いたけれど、それの扱い方は宮地くんの記憶が教えてくれた。桜球を宙に弧を描くように動かして、ぬいぐるみに落とした。触れた瞬間、辺りが桜色に染められる。なんだこのピンクの空間。私も宮地くんみたいに空色がよかった。  私がげんなりしているとショウは呆けた顔で辺りを見回している。  桜色の時間が終わって、私はふうと一息ついた。これでたぶんアドフィーは浄化できたはず。私は床に倒れているぬいぐるみを抱き上げて、ショウに言った。 「これでいい?」 「ああ、お疲れさま。やっぱり君はいい魔力をしている。さっきのを見られなかったなんてリンも可哀そうだな」  ショウは胸ポケットに入っている宮地くんを人差し指で撫でた。 「そういえば、どうして宮地くんや私のことを知っているの?」  しかも宮地くんのこと、本名の方で呼んでいるし、魔法に詳しいし、なんとなく宮地くんに似ているし。けど、たしか宮地くんのお兄ちゃんは「ベル」って名前だったはずだしなぁ。 「それは、俺がリンの兄だからだね。手紙の聞いてない?」  お兄ちゃんだった。 「え、でもベルって名前なんじゃ?」 「あ、そうそう。魔法界での名前がそう。けどこっちではそう名乗るわけもいかないだろ? だからリンが鈴って名乗るように、俺も(しょう)って名乗ってみようかなって」 「なら最初からそう言ってよ!」  怒る私に対してケラケラと笑うショウ。 「さて、そろそろ行こうか。君をリンの代わりに送り届けないといけない。家まで案内してくれる?」  二人で外に出ると、相変わらず外は真っ暗。ヒューと冷たい、風が吹く。ふと気になってショウの胸ポケットを見つめた。 「宮地くんどうするの?」  ずっと小さいままの宮地くんはいつになったら元に戻るんだろう。それにまだ眠ったままだし。 「ん、心配?」  うん。胡散臭いから。  ショウはうーんと唸ってまたもや胡散臭い笑顔で提案した。 「じゃあ、一緒に行こうか。まだばあやは起きてるはずだし」
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