魔法少年は忘れたい

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~ローブの中身~  暗い夜道に突然スッと現れる二人組。白兎クリーニングから姿を消したくるくる髪の少女と黒オーブ。二人が向かっているのは夜の小学校。  不機嫌な少女が黒ローブに言った。 「……今日は好きにしていいって言ってたのに」  ぶーっと頬を膨らませて、子供らしく拗ねる少女を見て、黒ローブはハハハと笑った。 「もちろん、君のしたこと、君の意見などには私も文句ないさ。ただ、今回は相手が相手だったしね」  黒オーブから聞こえるは、以前ピアノを弾いていた若い女の声。 「ねぇ、あの男一体誰なの? 魔法少年に似てるようだったけど」 「あの黒い髪に青い瞳。おそらくコルレガリア王国の三大公爵家の一つ、防衛と繁栄を司るパラディフィールド家のものだろう。あの青い瞳は空眼と呼ばれ、魔力の質や流れを見ることができると言われている」  くるくる髪の少女はつまらなさそうの顔をして「ふーん」と一言。 「だからそのダサいローブなんか纏ってんのね。理由があってもそのセンスはどうかと思うけど」  少女の言葉にムッとしたのか、黒ローブの女は黒ローブを脱いで、スーツの女にチェンジした。 「仕方ないだろ。君はともかく、空眼なら私が誰か特定されてしまう。この特殊なローブを着ていれば空眼の魔力監視を阻害できるんだから、使わない手はないだろう」  歩きながらローブを畳むスーツの女。くるくる髪の少女はクスクスと笑った。 「たまにはあなたの発明も役に立つのね。……それで、日中私が時間を稼いでいる間に、あなたはあの駄菓子屋で何か見つけたのかしら?」  少女が煽るように見上げるとスーツの女は苦い顔をして頭を掻いた。 「いや、それがねぇ……魔法少年がパラディフィールド家の人間ってことと、五月三日から魔法少年がコルレガリアに帰ることぐらいで……欲しい情報はなかったね」  あはは……と誤魔化すように笑うスーツの女に、少女は短く「はぁ」とため息をついた。 「なら、計画はまだ進まなそうね。アドフィーを浄化してくれる役がいないと実験も進まないし」 「まあね。あの二人が向こうに言っている間に、私はもう少し桜の子について調べておくかな。まさか魔法まで使えるなんて、流石に見過ごせない」  少女は少し険しい顔をして空を見上げた。月は大きく傾いて、もう数時間立てばまた日が昇る。 「そろそろおもちゃも箱に帰る時間なのかしらね」  ボソッと言った一言はスーツの女には届かない。少女は昼にもらった飴の甘さを思い出して、少し口寂しくなった。
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