魔法少年は忘れたい

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~夜道の散歩~  夜風に吹かれながらショウと並んで二人で歩く。足の方が少しだけ冷たかったけれど、ぬいぐるみを抱いている分寒いわけではなかった。 「ショウはどうしてこっちに来たの?」  歩きながら尋ねてみる。ショウはニコニコと笑って答えた。 「なんとなくかな」  なんとなくって……  私にはショウが何を考えているのかよくわからない。今度はショウが私に聞いてきた。 「君はどうしてリンの手伝いをしているんだ? 普通ならあんなものを見れば怖がって二度と同じ目に遭いたくないと思うけど」  普通なら……たしかに最初に見た時のゼリーの化け物や、ぐちゃぐちゃの時計、大きな熊は怖かった。足がすくんで動けないくらいには。一回目はその場の流れで、二回目は私しか動けなくて、今回は……宮地くんに頼まれたからだ。 「宮地くんが私を頼ってくれるから、かな」 「じゃあ、リンが他の子に頼みだしたら? 君との契約を破棄して、他のもっと都合のいい人と契約を結んだら? その時は君はまだリンとともにいる?」  笑顔のまま、表情をピクリとも変えずにショウは私の顔を覗き見る。  私と宮地くんに何の関係もなくなったなら、か。私は少し俯いて、深く考えてみる。私はまたいつも通り、絵里ちゃんや由香ちゃんと遊んで、その裏で宮地くんはアドフィーを調べて、鈴を探して……よくわからない。そんなこと急に言われても上手く考えられないよ。けれど。 「宮地くんが私を頼ってくれなくても、私は宮地くんと友達でいたい。アドフィーとか魔法とか、私の体質? とか、全然わかんないけど、でもずっと友達でいたいの。それじゃだめ?」  ショウは「そっか」と言ってまた前を向いた。続けて言う。 「本当はさ、君のことが気になって今日はこっちに来たんだ。実を言うとリンにも、ましてや屋敷の人間にも秘密で来たんだ」  屋敷……そうか、魔法界では貴族なんだっけ。ぼろぼろの駄菓子屋を思い出してしまってどうもうまく想像できない。  ショウはまた私の方を見て今度は今までの胡散臭い笑顔ではなく、優しい笑顔で私に言った。 「これからも、リンを頼むよ。大事な家族なんだ。たった一人の、大事な」  似たようなことをおばあちゃんにも頼まれたのを思い出した。私はふと気になって聞いてみる。 「じゃあ私、魔法界にはいかなくても大丈夫?」  ショウは首を横に振った。 「それとこれは話は別だ。向こうじゃないと話ができないこともある。大丈夫、怖いことはない。ちゃんとご馳走とか準備しておくから。そうだ、君の好きな物を用意しよう。何が好きなんだ?」 「さくらんぼ!」  迷う必要などない。好きな食べ物といえばこれしかない。  私のまっすぐな返答に対して、ショウはなぜか困った顔をした。 「さ、さくらんぼか。わかった。善処しよう」  ぜんしょ、とは何かわからないけれど、魔法界のさくらんぼが食べられるということかな。とっても楽しみ。  あ。通りかかった家の表札を見て、突然思い出して立ち止まる。 「どうかした?」  そこは博己くんの家。もうみんな寝ているのだろう。明かりは一つもついていない。 「ねぇ、このぬいぐるみをこの家に入れてあげることってできる? できれば二階の、博己くんの部屋に戻してあげたいんだけど」  ショウは「そんなことか」と言って、私からひょいとぬいぐるみを取り上げた。 「お安い御用で。『宿れ』『浮かべ』『思いが形無しで届くなら、きっとこれもそうだろう』」  言葉とともにぬいぐるみがまるで意志を持ったようにまっすぐに家の二階まで飛んで行く。そして窓のところまでゆくと、スッと、まるで窓が開いているかのように窓ガラスを通り抜けていった。まるで魔法みたいだ。 「これでいいかな」  私はびっくりして言葉も出なかった。代わりにこくりと頷いて答える。ショウは満足そうに笑ってまた駄菓子屋に向かって歩き出した。
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