魔法少年は忘れたい

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~おはよう、クマくん~  ベッドから起き上がって、あくびをしながら伸びをする。今日は日曜日。お母さんはいるけれど、お父さんは……きっと今日もセッタイだろう。  ぼんやりとした頭で部屋を出ようと歩き出す。 「あ、おあよう、クマくん」  いつも通り、兄弟のようにかわいがっているぬいぐるみに朝の挨拶をする。朝の―― あれ? 「クマくんだ!」  クマくんがいる! この前家出したのに、帰ってきたんだ!   勢い良く抱きしめて確認する。やっぱり間違いない。首元の赤いリボンに自分で書いた「ひろき」の三文字がちゃんと入っている。 「ありがとう、帰って来てくれて、ありがとう」  まるで魔法みたい。どうしていなくなったのか、あの日一体何があったのか、もうそんなことどうでもよかった。 「寂しくない?」 「うん、寂しくないよ……あれ?」  今誰かの声が聞こえたような。気のせいかな。  少年は気が付かない。窓の外からその様子を見ている少女の存在に。少女はクスクスと笑って、鼻歌を歌いながらその場から消えた。残るのは涙する少年と、声の出し方を忘れたぬいぐるみだけ。こうしてまた、いつも通りの日曜がやってくる。何も知らぬ少年はぬいぐるみを抱きしめたまま一階に降りて母に報告し、夜に活躍した少年少女は、まだ昨日の夜更かしを取り戻すかのように眠ったままだった。  
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