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桜の少女は近づきたい
~渦~
『やめて、テディ! やめてテディ!』
――思い出したくもない記憶がなんども渦巻いて吞まれてゆく。
魔法の鈴を何個も吸い込んで、膨れ上がった力に自身の制御すら曖昧になったテディが、いや、テディだったそれが周りのすべてを壊してゆく。
『お願い! お願いだから、もう……』
声なんてもう届かない。腕を伸ばして片っ端から薙ぎ払うテディは簡単な魔法なんて全て弾いてしまう。テディによって壊された破片はすぐにテディに吸収されて魔力に変換される。すでに僕が撃った浄化魔法も核に届かず呑まれてしまった。
『囲え。凍れ。結び留めよ』
『伝え。奪え。手繰り寄せよ』
『!……ダメ。やめて下さい!』
刹那、氷に包まれるテディ。同時に奪感魔法によって魔力が奪われるはずだった。お父様とお母様は勝利を確信したのか、僕の方に手を伸ばす。背後から手を伸ばすテディに気が付かないまま――。
「いやっ、嫌。イヤいや嫌嫌イヤイヤいやっ――」
~知らぬ間に日曜で~
「――嫌だっ!」
荒い息のまま、跳ね起きた。乱れた呼吸が何の夢を見ていたか思い出した。ぐちゃぐちゃになった頭のまま、時計の針を確認する。10時50分……随分と寝ていたな。いつから寝ていたんだっけ。たしか昨日の夜は……
「あっ」
なんで俺は自分の部屋で寝ていたんだ。アドフィーはどうなった。あいつは? 菜穂は一体どうなったんだ。
部屋を飛び出て階段を駆け下りる。扉を開けて、いない。こっちは――いない。ばあやがいない。一体どうして?
「ああ、ようやく起きましたか。よかった。酷くうなされているようでしたから心配したんですよ」
玄関からばあやが買い物袋を抱えて入ってきた。
「菜穂は? 菜穂はどうした!?」
バタバタと玄関まで駆けて、縋りつくように聞く。
焦る俺に、ばあやは優しい顔をして答えた。一言、「無事ですよ」と。ホッ、と胸を撫でおろし、同時に何か重いものが吹っ飛んだ俺はその場にへちゃりと座り込んだ。そうか、無事か。
「昨夜、一体何があったかわかるか?」
俺の質問にばあやは先に荷物を置いて、端的に昨日、一体何があったのか教えてくれた。
俺が倒れた後、菜穂とたまたまこっちに来ていたベルがアドフィーを浄化。ぬいぐるみは博己のもとへ返し、菜穂は自宅へ帰った。……たまたまこっちに来ていた、か。
「ベルはまだこっちにいるのか?」
「ベル坊ちゃんはリン坊ちゃんを送り届けるとすぐに帰りましたよ。なんでもさくらんぼが必要になったとか。おそらく坊ちゃんとナホちゃんが魔法界にくる準備をしているのでしょう」
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