桜の少女は近づきたい

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 結局何しに来ていたのかわからずか。 「さ、お腹がすいたでしょう。朝ごはん、には遅いですが、ちょっと早いお昼ごはんとしましょう」 「ああ、わかった……頼む」  とりあえず、食べ終わったらあいつのところへ行ってみよう。そして昨日のことを……謝らなくてはな。 ~あっちこっち~  ええと、たしかあいつの家はここらへんだったはず。  桜井という表札を見つけて、呼び鈴を鳴らす。 「はーい」  応答したのは大人の女。金髪で薄桃色の瞳。髪とか瞳の色とかぜんぜんあいつとは違うのに、どこか似ている気がするのはどうしてだろう。 「あ、もしかして菜穂の友達かしら」  『友達』か。こくりと頷く。 「ごめんなさい、あの子は今遊びに行っているのよ。たぶん東さんのところだと思うから、そっちに行ってみてくれる?」  東……たしかあいつは東由香と仲が良かったな。  俺は礼を言ってその場を離れようとすると、後ろからその人に呼び止められた。 「待って。 あの、君は…… いえ、そんなわけないわよね。菜穂が帰ってきたときのために、名前を教えてくれる?」 「……宮地鈴だ」  手を振るその人はにっこりと笑って俺を送り出した。会話中、ふんわりと、魔力を感じたのは気のせいだろうか。もしかしてあの人も俺の魔力を感じ取って、最後に何か言いよどんだのだろうか。おそらくこの人はあいつの母親のはずだし、あいつに魔力があるのは親にもあるはずだから―― 「――それじゃあ宮地くん。菜穂のこと、よろしくね」  一部の天才やとある一族を除いて、熟練した魔法使いほど、魔力を直感的に感じ取ることができる。とある一族でありながらその恩恵を受けられなかった俺は、まだ上手く魔力を感知することができない。  こくりと頷いてその場を後にした。 「菜穂か? 来てないぞ。どうした、土曜日に会えなくて寂しかったのか?」  到着した途端すぐに出てきたかと思えば、ん? とむかつく顔をして煽ってくるクソガサツ女。何か言い返してやろうと思ったけどやめた。エネルギーの無駄だ。 「おい、どうした。何か困りごとでもあるのか? このスーパープリティな由香様が話を聞いてやろうか」 「うるせぇ。自分でプリティとかいうんなら、せめてボタンくらいまともに止めろよな。掛け違えているぞ」  東が着ている青シャツの隙間から見えているピンクの肌着を睨みながら、ハッと鼻で笑う。ボーイッシュな格好のわりに、中に着ているのはなかなかに乙女チックなんだな。  東は慌てて俺に背を向けて、顔を真っ赤にして俺を睨んだ。 「どこ見てんだよ……ヘンタイ」 「見せんな、バーカ。それよか、あいつがどこに行ったかお前にはわからないか? もう家には行ったんだ」  東はボタンを全て止め直して俺の方に向き直ると、うーんと唸って考え始めた。 「絵里のとこには行ったか?」  琴宮絵里……あのクルクル女か。ふと昨日の偽物の方が頭に浮かぶ。 「遊ぶときはだいたい三人なんだけどな。まぁ、行くだけ行って見ろよ。私も菜穂を見かけたら『宮地が菜穂に飢えて探してた』って言っとくからさ」  ニッて笑う東を軽く小突いて、東に背を向けた。今度は琴宮のとこかぁ。なんとなくじれったくなって、俺は勢いに任せて走り出した。
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