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~魔法少年は忘れない~
当時、七歳だった俺は家族から外に出るのを禁止されていた。さらに言えば、人に会うことも禁止されていた。『他の御三家に知られてはならない』と言われ、隠されて生きてきたんだ。
けれど別に家族のことは嫌いなわけではなかった。両親は忙しいことが多くてほとんどかまってもらえなかったけれど、ちゃんと愛してくれていた。誕生日にはプレゼントをくれたし、読み書きができるようになると褒めてもくれた。ただ、魔法に関してはあまり気が進まないようだったけど、それに関してはベルが教えてくれた。
ベルは天才だった。空眼と宿魔魔法の両方を持ち、さらに生まれついての多い魔力量などパラディフィールド家の後継ぎとして必要なものをすべて持っていた。対して俺は平凡な魔力量にただの黒い瞳。他の御三家に俺の存在が知られれば、馬鹿にされることは間違いなかった。
コルレガリア王国はコルレガリア王家と三つの貴族によって治められている。三つの貴族とは攻究と記録のノーレッジ家、平等と裁断のジャッジメント家、そして防衛と繁栄のパラディフィールド家であり、それこそが三大公爵家だ。貴族と一般人の違いは一言でいえば「目」だ。貴族はそれぞれ特別な目を持つ。パラディフィールド家で代々伝わるのは「空眼」。お前も見ただろ、ベルのあの綺麗な青い瞳を。あれは魔力の質やその流れを見ることができ、別名「魔法を見通す目」とも呼ばれている。お前の魔法を弱めてしまうっていう不思議な体質もあいつならそれがどうしてかわかるだろうな。
ベルの弟として生まれた俺は、そのパラディフィールド家の証である空眼を持っていなかった。だからみんなが俺を隠すのは仕方ないことだとわかってた。それでもさ、外を見てしまうんだ。物語で読むこの広い世界は、一体どこまで走ってゆけるんだろう。窓から見えるあの空は、一体どこまで広がっているんだろう。そう思うとわくわくして止まらない。
一人前になればきっと家族も、そして他の貴族も認めてくれる。そう思ってひたすらに魔法の練習をした。たくさんの魔法を覚えて、使えるようになって、ベルの隣に並べるようになればきっと、何をしても許してもらえる。
そう思ってその日も、俺は魔法の練習をしていた。それで、お父様とお母様にできるようになった魔法を見てもらおうと思って二人のいる部屋に行こうとしたんだ。けれど部屋の前まで行ったら、またお父様とお母様が喧嘩していたんだ。「どうして俺の瞳は黒いのか」ってさ。
薄々気が付いてた。どんなに読み書きや魔法を人並みに、いやそれ以上にできるようになっても、何も解決しないって。お父様とお母様は俺のことを愛してくれるけれど、それは二人が優しいからで、本当ならパラディフィールド家らしくない俺なんか……いない方がいいってこと。気づいてたんだ。
ならさ。それならさ。俺もパラディフィールド家として、その証を手に入れればいい。パラディフィールド家に伝わるのは、何も空眼だけじゃない。物に魔力を宿す魔法、「宿魔魔法」が使えるようになれば、俺だって――。
父の部屋で内緒で見つけた宿魔魔法の本。ベルには止めとけって言われたけれど、もう止まってなんかいられなかった。
「『移れ、その心。宿れ、その心。行く末はお前の心だけ』」
四歳の誕生日にもらった大切なぬいぐるみ、テディ。俺にとっては一番の友達だった。そのテディに俺は宿魔魔法をかけたんだ。
宿魔魔法をかけられたテディは、一人でに動くようになった。それだけじゃない。会話もできるようになった。テディは本当に人間のように自然に、本当に生きている様だった。俺はうれしかったりびっくりしたりして、すぐに走って両親にテディを見せた。喧嘩しているのなんかまったく気にせずにさ。二人は驚いていたよ。何でも、本来の宿魔魔法ってのは物に自分の魔力をねじ込んで、浮かばして動かしたり、爆発させたりするものだったみたいで、テディのようなものが生まれるはずなかったからだ。それこそ、「魔法の鈴」のように鈴に魔力を込めただけのものができるはずだった。お父様とベルの空眼に見てもらったところ、テディは今までの原理とはかけ離れた存在であることが分かった。テディは俺が宿した魔力だけでなく、自分自身で魔力を生み出すシステムが体の中に出来上がっていたのだ。
この大発見に貢献した俺は、特待生として「学会」、こっちで言う学校みたいなものに通わせてもらえることになった。まぁ、まだパラディフィールドの人間だということは隠してだったけれど、それでも俺にとっては充分だった。そして、テディのことはパラディフィールド家内だけの秘匿事項となった。現状では謎が多いっていうのもあるけれど、「人間以外で魔力を生産することができる」っていう事実を他に漏らしてしまえば、兵器の製造、すなわち戦争の原因になってしまうと考えられたからだ。
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