不眠症

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AM11:00 今日もまた眠れないのか、と男は溜息を零した。 昼に眠り夜に働く生活が始まって約六ヶ月。男はその生活に慣れないでいた。 昼夜逆転の生活。今迄働いていた時間に眠り、眠っていた時間に働くー 簡単な様に見えるが、今迄の習慣を壊す事は思う以上に難しく、ストレスがかかる。 男は不眠症に陥っていた。身体は疲労困憊なのに精神がそれを拒絶しているかの様に男は眠れなかった。 昼でも遮光カーテンで覆われていて部屋は真っ暗だ。防音装備の部屋には屋外の騒音も一切届かない。防音装備などなくとも外はしんと波打つ様に静かなのだが… 暖かな間接照明の灯りを見つめていると、今が昼間だとはとても思えない。 男は確かめる様に窓に近づき、遮光カーテンをそっと開けると、防光・防熱の窓に映る太陽がギラギラとこちらを見つめていた。 今は眠る時間だ。夜だぞ、夜にそんなに眩しく光っていてはいけない。正確には昼なのだが… 本当に昼なのだと確認し、男は少し安堵した。 今は八月。真夏の太陽を感じ、男は山でのバーベキューで飲むビール、海で寝転びながら飲むビールの喉越しを思い出して苦笑いをした。 「今日もやけ酒か…」 男は遮光カーテンをそっと閉めた。 PM19:00 眠れなかった男は出勤準備を始めていた。カーテンを開け放した窓には細い月の光がゆらゆらと揺れている。テレビのニュースキャスターがおはようございますと挨拶をする。夜におはようございますと言う挨拶にも男はまだ慣れないでいた。 ニュースキャスターはニュースを続ける。 「地球温暖化による昼夜逆転令が発令されてから約六ヶ月。未だにその生活に慣れずに不眠症に陥る国民が相次いでいる模様です。精神に疾患を来たす国民も多く、自殺者や昼の外出禁止令を破り高温の日中の屋外に飛び出し、熱中症による死亡者も相次いでおります」
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