ケース8️⃣ 前世輪廻

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その貯蔵していた野菜を取り出した後、ヌカを洗い流す為、洗浄工程である回転式ドラム洗浄機を通り、更にバブル洗浄機によって、小さなゴミまで除去していく。 このように、基本的には機械が洗浄するが、細かい部分は人間の手でも行われる。 その数名の、手で洗い流すグループのところで、李念は作業していた。 続いて選別・定寸工程へと野菜は流れていく。 選別という工程には、検品の意味もあり、野菜の中に異物が混入していないか、機械と作業員の目視の両方で入念にチェックしていくのだ。不良原料をはね出し、良品のみ長さを揃えていく。 その後、重量選別機にかけられ、重さによって振り分けられる。 そして切断の工程で、野菜を食べやすい大きさに切断していく。切り方によって漬物の歯切れのよさが変わるため、この「切断」が漬物の製造における重要な工程のひとつになっているのだ。 その後に塩漬け工程へと移り、切断した食材を塩で漬け込んでいく。この工程によって味のベースである塩味が付き、食品としての保存性も上がる。 そして梱包・出荷の工程で、品質や安全性をチェックしながらパッケージに詰め、各地に出荷する事となる。 けたたましく動き続ける機械の音と、白い衛生服を着た作業員たちが、それぞれの流れの工程で、今日一日を目一杯に働いていた。 李念も、野菜を必死に洗う工程で、黙々と作業に勤《いそ》しんでいる。 仕事中は、衛生面に気をつけてマスクを着用しているという事もあり、人と話をする機会がほとんどない。 始業時間から終業まで、与えられた自分の持ち場をきちんとこなす。 真剣な眼差しで、作業を続けている李念。 貯蔵していた野菜が、次々と流れてきて、その状態を観察しながら洗いこんでいくわけだが、その作業はまるで孤独な手洗い洗濯。 もちろん、昼食時間と15時のお茶休憩は与えられているが、しかし工場の経営者としては、限られた人員で継続して作業をしてくれたほうが効率良いのだ。 そんな感じで李念は、昼食と飲水以外は口を開く事もなく、17時の終業を迎えると疲れきった体を家路へと向かわせる。 駅の前まで来た時、路上で幾つもの買い物袋をさげたお婆さんが、重たそうにして歩いている姿を見つけた。 きっと、どこかで買い物して、やっとの思いでここまで歩いてきたのだろう。 お婆さんは力尽きて、その重い袋を地面に置いた。 そこで、李念が歩み寄り、声をかける。 「あ、あの・・・、大丈夫ですか? ・・袋、持ちましょうか?」 やや動悸混じりの呼吸をしながら、お婆さんは李念の方を振り返った。
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