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笑顔を返す李念。
お婆さんはすぐに返答出来ずに、きょとんとした顔のまま、見返している。
そこへ更に勇気を振り絞って、李念が近づき、お婆さんが地面に置いている買い物袋へと手を伸ばした。
「やめてください!」
突然のそのお婆さんの力強い一括に、李念の体は面食らって硬直する。
ほんの先程まで、穏やかに李念の方を見ていたお婆さんは、急に険しい表情になり言い返した。
「知らない人に、荷物を持ってもらわなくて結構です! 良い人を装って、私の荷物を取っていくかもしれんからね!」
お婆さんは再び、重い荷物を持って、さっさと歩き去っていく。
その場に残された李念は、ただ唖然とした顔で、その後ろ姿を見送る事しか出来なかった。
何が、いけなかったのだろう。
重い荷物を大変そうに抱えている姿を見て、放っておけず声をかけたのだが・・・。
李念は、よく理解出来ないまま、再び駅に向かって歩きはじめた。
今日一日、疲れていた体が更に、脱力感とともに重くのしかかってきたように感じる。
俯きながら歩いていく李念。
改めて考え直してみると、お婆さんの立場なら、いきなり知らない人が大事な荷物を持つなんて、怪しい感じもするし、警戒して当然なのかもしれない。
李念は、頭の中でそう自分に言い聞かせながら、駅の中へと入っていった。
その後、列車の中から、すっかり陽の沈んでしまった町並みを見ながら、いつものようにボッーとしている。
なんとかアパートの前まで帰ってきた李念は、ふと昨日まで切れていた、階段の電灯が明るく点灯している事に気がついた。
およそ3ヶ月前ぐらいから、切れてしまった電灯を同じアパートの住人が管理人に報告していたが、どうやらそれがやっと、新しい電灯に付け替えられたようだった。
李念が見つめる、その電灯には、蛾やカメムシが集まってきているのが見える。
李念は、とぼとぼと階段を4階まであがり、自分の部屋へと入っていった。
誰もいない薄暗くなった家の中に、電気を点けて、リュックを下ろす。
どこか安堵が得られ、ふぅと一つ溜息をついた。
隣の部屋からまた、いつものように激しく怒鳴る声が時折、聞こえてくる。
それを耳の隅で聞き流しながら、台所のやかんでお湯を沸かしはじめるのだった。
手際良く、棚からカップラーメンを一つ取り出して蓋を開ける。
その後、沸騰したお湯をカップラーメンに注ぎ、居間で3分間を待っていると、隣の部屋からガッチャ〜ンという、物が壊れる派手な音がした。
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