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テレビのない李念は、居間のテーブルで一人、カップラーメンを食べる事に集中する。
詳しくは、テレビはあるのだが、2ヶ月程前に突然故障して見れなくなったのだ。
テレビを買い替えるお金などない。
李念はそれよりも、もっと美味しいご馳走が食べたかった。
風呂を済ませて、布団に入り就寝する頃、まだ隣は、ぶちぶちと文句を言う声が聞こえ、子供の泣き声もしていた。
しかし、こんな感じが、李念のいつもの日常で、こうやって今日という一日が終わっていくのである。
翌日の朝。
今日は、漬物工場での仕事が休みだった李念は、慌てる様子もなく、のんびり過ごしていた。
休日ぐらい、時間を気にせずゴロゴロと昼頃まで寝転がっているのもいい。
「あ! しまった・・。」
李念は突然、何かを思い出し、布団から起き上がる。
そうして、改めて置き時計の時間を確認した。
午前8時54分。
バタバタと台所まで行き着くと、2つの大きなゴミ袋を両手に持つ。
今日は、燃えるゴミの収集日で、前回出し忘れてしまったせいで、既に2袋も溜まってしまっていた。
「今日こそ、ゴミを出さないと・・。」
李念は、そう呟いて、ゴミ袋を両手に持って家を出る。
太った体型のうえに、大きなゴミ袋を2つも抱えた李念には、狭過ぎる階段だったが、構わずに階下へと下りて、アパートの外側に設置しているゴミ収集箱へと投げ込んだ。
今日が休日だと安易に過ごしていたのだが、慌ただしく駆け出して、なんとか懸念していたゴミ出しも無事に完了させる。
その安堵感と、いきなり全力で走り回った李念は、急に疲労感に襲われて重い体を引きずるように、また階段を上りはじめた。
それで、やっと4階まで上がってきた時には、全身から汗が吹き出すように流れる。
李念は、自分の部屋の前まで来ると、鍵を開けようとして、ちょうどポケットに手を入れた時だった。
ふと気がつくと、隣の家の玄関前に、女の子が立ち、李念のほうを見ている。
一瞬驚いた李念だったが、すぐに笑顔になって、女の子へと頭を下げた。
「おはよう。」
色白で、大きく澄んだ瞳をしている女の子は、少し痩せ気味に見えたが、訝《いぶか》しげに返答する。
「・・おはよう。」
それに対して李念も、その後の言葉がすぐに続かず不器用に当惑していたが、少し間をおいて投げかけた。
「・・お嬢ちゃん、名前は?」
女の子は玄関前で、暇を持て余しているかのようにドアノブを扱いながら答える。
「・・美羽。」
李念は、ぎこちない笑顔を浮かべて受け応えた。
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