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事務役員と思われる女性スタッフが二人。
そして、もう一人座っていた男性が工場長だ。
李念は、その工場長のデスク前へと歩み寄る。
眼鏡をかけ、ポッチャリとした体型の工場長が、パソコン業務をしていた手を止めた。
「えっ〜と、李念くんだね。仕事中に呼び出して、すまない。」
呼ばれた理由も分からず、李念は言葉もなく、軽く頷く。
工場長に呼び出される事なんて滅多になく、もちろん良い事か、悪い事かのどちらかだ。
わざわざ呼んで、なんでもない世間話や、まさか昨日の夕食は何を食べたのか、なんて話をするはずがなかった。
案の定、李念の場合、こんな時は悪い方の状況が多い。
「君は、まあ遅刻欠勤もなく、仕事しているようだが、現場の従業員たちから、作業効率が悪い、という苦情が出ていてね〜。」
工場長が、眼鏡を外しながら口を開いた。
「あ、は、はあ・・。」
李念は、微かに聞き取れるぐらいの声で、返答する。
緊張からか、前で組んだ手の指が、モジモジと動き続けて止まらない。
「知っての通り、うちとしても作業効率が落ちるのは困るんだよ。分かるよな?」
「は、はあ・・。」
李念は、もはや返答なのか、溜息なのか分からない言葉を漏らす。
「要するに、うちの工場には、アルバイト・パートも含めて連日、就職希望がきているのだよ。工場としては、作業効率が悪い人間より、手際良く働いてくれる人間の方を雇いたいのだよ。」
そう言われて、李念の全身に更に緊張が襲いかかった。
椅子に座ったまま、工場長が冷たい言葉を投げかける。
「どうする? やる気がなければ、君には工場を辞めてもらっても良いんだが・・。」
そこで、急にスイッチが入ったかのように、李念は深く頭を下げて、必死に訴えた。
「すいませんでした! あの、これからは仕事を一生懸命に頑張ります! 頑張りますので、クビだけは許してください!」
同じ室内にいた女性事務員たちも、仕事の手を止めて李念の様子を横目で見ている。
頭を下げたまま、静止している李念。
「これからは気持ちを入れ替えて、人の倍働きますか?」
工場長が問いかけた。
必死の李念は、再び深く頭を下げて言う。
「は、はい! 頑張りますので、よろしくお願いします!」
工場長は少しの間、李念を見つめていたが、やがて仕方ない、といった雰囲気で口を開いた。
「・・分かりました。最後のチャンスをあげますので、頑張って働いてください。しかし、次こそは・・・分かっていますね?」
「は、はい! ありがとうございます! 頑張ります!」
李念はもう、無我夢中でしがみつくように答える。
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