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帰宅途中で、昨夜立ち寄った近所の公園にまた、ふらりと足を運ぶ。
ちょうど近所の親子が、家路へと帰っていくところをすれ違った。
李念は、そのまま公園内へと入り、少し歩く。
その時、砂場の所で、幼い子供が一人座り込んで遊んでいる事に気が付いた。
李念は何気なく、その子の傍まで近付いていったが、すぐにその子が隣に住む美羽だと分かった。
「美羽、ちゃん・・。」
名前を呼ばれて、砂場で遊んでいた美羽は、李念の方に目をやる。
「一人で遊んでるの?」
そう言いながら、李念が傍にしゃがみ込んだ。
美羽はまた、遊んでいる砂の方に視線を戻し、ポツリと言う。
「リネンも、一人〜?」
そう聞かれて、李念は一言返した。
「・・うん。」
美羽が一生懸命に作っていた砂の山を、いつの間にか李念も手伝っている。
「美羽〜!」
呼ぶ声が聞こえて、向こうから足早に、母親の景子が現れた。
景子は美羽の所に駆け寄ってきながら、李念の存在に気付き、一瞬ハッとしていたが、軽く頭だけ下げる。
「美羽! ほら、もう帰るわよ!」
そう言って、美羽の手を掴んで、帰宅を促した。
美羽も言われるがままに、すぐに立ち上がり景子と一緒に歩いていく。
砂場に、しゃがみ込んだままの李念が、その去っていく後ろ姿を見つめていたが、美羽は一度だけ振り返って、帰っていった。
夜。
また、隣の家から、大きな怒鳴り声が響いている。
「何で、酒を買わねえんだ〜!」
ガッシャ〜ン‼︎
ガラスのような物が、激しく割れる音が聞こえた。
李念は目を開けたまま身動きせず、隣の状況を耳だけで感じている。
子供の泣き声が聞こえた。
「そんなに、お酒を買えるお金があるわけないでしょ⁈」
女性の声がする。
「口ごたえするか〜!」
男性の激しい大声の後、また何か物が壊れる音がした。
女性の泣く声。
いつもの不快な夜は、いつしか明けていった。
数日後。
早上がりの勤務で、仕事を終えた李念は、近所のスーパーへと買い物に行っていた。
目的は、売れ残った弁当と惣菜。
日中は、500円程で売られている弁当も、夕方の16時を過ぎると、売れ残りと判断されて、店員が割引シールを貼っていく。
その弁当の種類によっては、350円とか300円の値で販売されているのだ。
店側としては、弁当や惣菜を売れ残るぐらいなら、値下げして売り捌いた方が、廃棄処分しなくて済むからだった。
その恩知に預かり、金銭のない李念は、買い付けに行く。
どうやら、今日は運が良いらしい。
トンカツ弁当を値下げで買う事が出来た。
何気なく、幸せな気持ちで家路へと向かう李念。
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