ケース8️⃣ 前世輪廻

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「いや、この前さ、松田さんと江戸川さんに道場で逮捕術っていうのを習ったんだよ。」 「だからって、俺で試すなよ。」 貴志は、真剣な表情で言い返す。 「ハハ、悪かったな。まあでも、俺も習ったっていっても、ほんとに少しの時間だけだったけどな。あの二人の刑事は、突然バタバタと慌てて出掛けていったんだ。」 昌也が説明し、まだ機嫌の治らない貴志に続けて言った。 「逮捕術を習う時、お前も誘おうかと思ったけど。貴志は、そんな格闘技とか嫌いだから、断ると思って、な。」 「いや〜、俺は逮捕術とか格闘技とか、そんな痛そうな事は無理。誘われても行かないよ。バスケも行かないけど。」 貴志は慌てて、否定するかのように答える。 「お前ってさ、なんか楽しみとかあるのか? バイトは続けてるけど。」 昌也が、気にかけた様子で尋ねた。 「いや、まあ、バイトは確かにやってるけど。楽しみっていったら・・・。」 貴志は、少し困った様子で考えはじめる。 それを見透かすように、昌也が言った。 「特に楽しみなんてないだろ。貴志。お前、高校卒業した後、どうするんだよ。何か考えてるのか?」 「な、何だよ、いきなり・・。学校の先生みたいな事、言うなよ。」 やや困惑気味に返答する貴志。 向かい合っていた二人は、再び一面に広がる景色へと向き直った。 貴志と昌也の会話が、まるで無に帰すかのように、のどかな風景は、穏やかに佇んでいる。 「そういう昌也は、なんか決めてるのかよ?」 今度は、貴志が聞き返した。 「う〜ん、まだハッキリと決めたわけじゃないけど。・・・何となく、な。」 遠くに視線を移したまま、昌也が答える。 「なんだよ。お前だって、まだハッキリと決めてるわけじゃないのか。俺と一緒じゃん。」 貴志が、同類の同等だという事を伝えた。 「ハハ、まあな。でも、自分でもよく分からないけど。少しずつ、やりたい事に気がついた感じがしてきたよ。」 昌也は、笑顔を見せながら、貴志に告げる。 「ふ〜ん。そうか・・・。」 いまいち、ハッキリとしない貴志だったが、それに対して喝を入れるかのように突然、昌也が背中を叩いてきた。 「ま、最後の高校生活。一緒に頑張ろうぜ、貴志!」 「痛っ!・・くぅ。」 叩かれた背中を押さえて、貴志が顔を歪める。 「いきなり、叩くかよ!」 「ハハハハ!」 二人のじゃれ合う声が、屋上から空へとかき消されていった。
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