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ここは、タコ焼きハウス・エリーゼ。
店頭に立っている叶恵が、お客にタコ焼きの入った袋を手渡していた。
「ありがとうね〜! また来てくださ〜い!」
そう言われて受け取るお客は、ガソリンスタンドの制服を来ており、どうやら近所から買いに来たようだった。
叶恵は、ガソリンスタンドのお客を見送る。
そこへ、ちょうど次の客らしき人が、店に訪れた。
「あの、すいません。」
「はい! いらっしゃいませ〜!」
叶恵は元気に対応し、その客を見ると、初めて見る女性がそこに立っている。
女性は30歳代で、黒い小型犬を抱きかかえていた。
その客を確認した後、叶恵は更に投げかける。
「えっと〜、タコ焼きですよね⁈ いくつ、要りますか?」
色白で華奢《きゃしゃ》な体型をした女性客は、やや戸惑いながら答えた。
「あ、・・じゃあ、タコ焼き1つ。」
「はい、毎度〜!」
注文を受けた叶恵は、いつも通りに、タコ焼きに取りかかる。
すぐに、その女性客が、付け加えた。
「あの・・すいません。占いも、お願いして良いですか?」
鉄板でタコを焼きはじめた叶恵は、ジュージューという音に阻まれながらも、苦笑いで言う。
「あ、お客さん。すいません。占いの方は、もうやってないんですよ〜。」
「あ、そうなんですか・・。」
残念そうな表情を浮かべる女性客。
「はい。申し訳ないです〜。」
叶恵は謝りながらも、どこか割り切ったような顔つきで言葉を返した。
その女性客の特徴的な所は、左目の下に一つ、ホクロがある事だった。
タコ焼きを作りながらも叶恵は、チラリとその女性を見て、印象的なホクロを確認する。
それ以後、女性客は何も喋らず、出来上がったタコ焼きを受け取り、料金を支払った。
手を振って見送る叶恵に、軽く頭を下げて、そのまま犬を連れて帰って行く。
再び、店内で一人になった叶恵は、フゥと溜息をついた。
その心情には、お客の要望する占いをしてあげる事が出来ないもどかしさと、今こうして置かれた自分の状況をみて、力のなさを痛感しているのだった。
先日メグと、今後占いをしていく権利を賭けて、対決をしたのは記憶に新しい。
結果、叶恵は負けてしまい、二度と占いをしない、という約束を健気《けなげ》に守っているわけだが・・。
そんな叶恵の律儀すぎる行動は、人によっては馬鹿正直だと揶揄《やゆ》するかもしれないし、また内緒でコッソリと占いをこれまで通り続けていけば、さしてバレる事もない、と指摘する人もいるだろう。
確かに、この前の占い師同士の対決は、なにか正式な見届け人などを付けて行なわれた公式的な対戦でもないし、約束を破ったからといって法的に罰せられるわけでもない。
なんの縛りもない勝負だったのだ。
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