11人が本棚に入れています
本棚に追加
その観点からすると、叶恵という人物は、生真面目という事になるのだろうか。
対決の時、メグの妹のエイミーを見て、故人である娘の千恵を連想したとはいえ、わざと負けを選択した。
それも含めて、約束通り占いをやめてしまった叶恵は、そういう人間なのである。
不器用にも、こういう生き方しか出来ない女性なのだ。
それでも、これで本当に良かったのか、と自問自答して溜息をついてみるのである。
それから数日後の夕方。
ある家の、門扉のチャイムを押す貴志の姿があった。
表札には、『鬼切』と書いてある。
程なくして、玄関のドアが開き、鬼切店長が笑顔で迎えてくれた。
家の中へと入った貴志は、いつものようにリビングへと案内される。
一人暮らしの鬼切店長の家は、静寂の空気が辺りを包み込んでいたが、オシャレな家具やインテリアがそれを忘れさせるかのように佇んでいた。
相変わらず綺麗に保たれている室内は、鬼切店長の清潔感ある性格を物語っている。
「貴志。まあ、どこかその辺に座れよ。」
そう言われた貴志は、それでも遠慮気味に、どこに座ろうかと戸惑っていたが、その間に鬼切店長はリビングから出ていった。
貴志は、とりあえずソファの隅に腰を下ろして落ち着こうとしている。
慣れないソファに座り、そこから見える庭の景色を眺めながら、貴志はぼんやりと考えていた。
普段、鬼切店長は、この家で一人・・。何を考え、どんな事を思いながら暮らしているのだろう。
なんとなく、そんな余計な詮索をしていた。
そこへ、二つのグラスを乗せたトレイを持って、鬼切店長が現れる。
そそくさと慣れた手つきで、一つのグラスが貴志の前のテーブルに置かれ、残りのグラスを手に取って、鬼切店長はソファへと座った。
「今日、せっかくバイトが休みだったのに、呼びだして、すまなかったな。」
申し訳なく話す鬼切店長に、貴志はすぐに答える。
「いえ、大丈夫ですよ。休みっていっても、特に用事はないですから。」
「貴志〜。寂しい事を言うなあ。若い青春の時に、バイト以外何もないなんて・・。」
堂々とソファに座り込んだ鬼切店長が、貴志を横目で見ながら言った。
「いやぁ〜、まあ・・。」
貴志は、困った様子で俯き加減になり、特に返す言葉が見つからない。
その時、貴志の前のテーブルに置かれた、グラスの氷が小さく音を立てた。
「貴志。まあ、飲み物でも飲めよ。」
「あ、はい。」
鬼切店長に促されて、貴志はグラスを手に取る。
「今日は、自家製レモネードじゃなく、スムージーを作ってみたんだ。」
最初のコメントを投稿しよう!