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一生のお願い
(あぁ、あと30分……。早く終わんないかな……)
日花里は左腕にはめたラベンダー色の腕時計を見て小さくため息を吐いた。
一体、この一時間で何回ため息を吐いただろう。
きっと、30回以上は吐いたはず。
それもこれもこのつまらない合コンのせいだ。
合コンのメンバーは同じ大学の男子5人と、女子5人。その中で知っているのは友人の奈美一人で、今夜はわけあって参加している。
皆は酒を飲んでは笑い、盛り上がっているが、日花里だけはまったく楽しさがわからず、つい最近飲めるようになった果実酒をちょっとずつ飲んでいるだけだ。
隣に座っている奈美は彼女の目の前にいる男と楽しげに話しているけれど。
「日花里ちゃん、ずっと時計見てるけどこの後何かあるの?」
突然顔を覗き込んできたのは、正面に座っている一人の男子だ。
「え、えっと……」
突然話しかけられたことに動揺し、日花里は口ごもった。
会が始まって一時間、自己紹介時以来男子と話をしていない。そのためまさか名前を覚えられているとも思わず、驚き目を瞬いた。
「星矢。北野星矢」
「え?」
「俺の名前だよ」
星矢は彼自身を指で差し笑った。
すっかり名前を忘れていた日花里は、「ははっ」と、愛想笑いを浮かべると、星矢は「忘れてたでしょ」と、小さく笑った。
鋭い指摘に苦笑しつつも、心で「仕方ないじゃない……」と、言い返す。
本当に仕方がないことなのだ。だって日花里は長いことずっと一人の男しか興味がないのだから。
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