そうだとか、そうじゃないだとか

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「俺はシンプルに、好きなら一緒にいればいいって思ったけど、高峯はそうじゃないじゃん? 今までの恋愛でも、散々傷ついてきたわけだしね。俺が気持ちを伝えることで、逆に苦しめちゃうのかなって。そんな高峯を見て戸惑ったし、勢いだけじゃなく、時間をかけてよく考えなきゃって」 「……考えてくれてたの?」 「考えましたよ。じっくりコトコト、時間をかけて」 今度は、小町が一歩、踏み込んできた。 それでもまだ、手を握れるほどの距離にはない。 手をのばしてみようか——指先が動いては、躊躇に捕らえられて丸まった。 「でも、やっぱり変わんなかった。いくら考えても、好きなら一緒にいればいいじゃんって結論にしかならなくて。そりゃあ、未来のことはわからないし、わからないもんに保証はできないけどもさ。でも、少し距離を置いて気づいたこともあったかな」 彼から受け取る一字一句すべてを、胸に刻みつける。 刻印されたそれは、今後どんなことがあっても、生涯、高峯の足元を照らし続けてくれるだろうと思った。 「ねぇ、あのドラマの最後の2話、いつ観るつもりなの?」 気づいたこととやらを打ち明けられるつもりでいたから、話の飛躍ぶりにやや拍子抜けしてしまう。 高峯がなにも言わないでいると、小町は今日初めて、目を丸くした。 「もしかして、もう観ちゃったの?」 「観てない。観られない……」 小町とじゃなきゃ、意味がないのだ。 安堵したのか、幅の広い肩がゆったりとした速度で上下した。 「じゃあ観よう。終わったら、次は新シーズンも一緒に」 「小町……」 「好きだから、隣にいてください」 最高が、最高で上塗りされていく。 それは、決して覚えてはいけない幸福のような気がして、高峯はどこか他人事のように受け止めていた。 「人がせっかくイッセーイチダイの告白をしたってーのに、ぼんやりしてんじゃないよ」 小町が笑う。 先ほどとはちがう、ゆるい口調に解かれるようにして、高峯も薄く唇を開いた。 「だって、そんな、おかしいよ」 「え、ナニ」 「小町は違うじゃん。じゃないし、そんな……」 小町は、足で小石をじゃりじゃりと転がしている。 退屈な質問をされてしまったといわんばかりの態度だった。
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