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タイムカードを切ると、高峯はいつもそうするように、うなじから首の付け根にかけてを撫でつけた。
長時間、店内の冷風に晒されていたそこは、しっとりと冷たかったが、手のひらの熱を吸って、ほのかに温まっていく。
——子どもの時によく、公園の砂場を掘り起こし、わずかな湿気を探し当てると、両手を突っ込んで土に埋めた。
しいて言うならば、その時に味わう、静けさと安堵に似ている。
やがて、うなじからすっかりと冷たさが失われてしまうと、パンツのバックポケットに手を当てて、アルミニウムの四角い感触を指でなぞった。
ポケットいっぱいの面積を占めたスマートフォンを、親指と人差し指でつまみ上げながら抜き取る。
画面を一瞥すると、高峯はため息代わりに、肩をすくめた。
——メッセージはやはり、松濤からだった。
内容も想定通りで「サークルのミーティングが長引いていて帰るのが遅れる。買い物をして部屋で待っていてほしい」という趣旨のものだ。
彼がミーティングとやらに取り組み始めてから、もうずいぶんと経つ。
自転車愛好会というわりに、自転車に乗るのは夏休みの合宿だけで、あとは飲み会ばかりのサークルだったはずだ。
よっぽど都合のよいサドルでも見つけたのだろう。今回は随分と熱心らしい。
短い返事を打つのすら面倒で、スタンプをひとつ送りつけておくと、スマートフォンをバックポケットにねじ込んだ。
作業着を脱いで名札を外すと、それだけでもう身支度は終わってしまう。
高峯は、ロッカーの扉に付いている小さな鏡で前髪を整えてから、休憩スペースのパイプ椅子に腰を下ろした。
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