HOME SWEET HOME

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 昨夜は千秋からの連絡をずっと待っていたので、よく眠れなかった。連絡がつくまで国際電話をかけ続けたかったが、もし何事もなくて千秋の睡眠を妨害したら悪いと思ってできなかったのだ。  私は帰り支度をさっさと済ませてホテルのカフェに行き、音声メモの文字起こしを始めた。 「塩谷さん、仕事熱心っすねえ」 朝食に姿を現さなかった高根沢君がやって来た。ひょろりとしていて猫背気味だ。ねぼけ(まなこ)だが、カメラとパソコンの入ったバッグを肩からかけていた。 「おはよう。日本に帰国したら次の日休みたいから、今やっておくの」 「せっかくオーストラリアにいるのに。そうだ、海にも行きましょうよ。ねえ、塩谷さ~ん」 呆れて高根沢君を見ると、彼の眼はトークを楽しんでいる金髪ガールたちに釘付けだった。 「高根沢君はどうぞ、楽しんで」 「ちぇ、英語の勉強しとくんだった」 それ以前の問題だと思うけど。 欧米の女性はマッチョが好きっていうからね、ここはオーストラリアだから違うかな。 高根沢君は金髪ガールをぼおっと眺めながら、生ビールの大ジョッキほどの大きさのグラスでアイスコーヒーを飲んでいた。持ち上げるたびに氷の音がカラカラと聞こえた。そしてとうとう諦めたらしく、隣の席でラップトップを広げてカメラから写真をおとし始めた。 私は時々スマホを確認したが、千秋からの応答はなかった。誰かに連絡して様子を見に行ってもらおうか、でも家の鍵は閉めてきたから中のことまでわからないだろう。 すると高根沢君が私の落ち着かない様子に気づいた。 「塩谷さん、チアキちゃんっすか?」 「ん? ええ、まあ」 「まさか小さい子、ひとりで残してきたんすか?」 「まさか」 「心配なら警察に連絡したらどうです?」 「まあ、そうねえ」 こんなぼおっとしている人に気もそぞろなことを気づかれるなんて、私はよっぽど注意力散漫な状態に違いない。気をつけなければ。
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