18人が本棚に入れています
本棚に追加
お昼前にリゾートから空港に送迎バスが出る。私と高根沢君は運転手にスーツケースを預けて一番に乗り込んだが、他の旅行客はなかなか来なかった。日本人は世界一時間を守る人種と言われればそれまでだが、とにかく一刻も早く日本に戻りたいのだ。そのうち、ぽつりぽつりと外国人客が乗り込んできた。
「ねえ高根沢君、もしかしてこのバス、乗客がいっぱいになったら出発するのかな」
「ああ、そうかもしれませんねえ」
「空港までバスで10分って言ってたから、歩かない?」
「ええ~いやですよお、荷物あるし」
「だって待ってる時間に着いちゃうよ」
高根沢君が動く気配はなく、私はいらいらしながらバスが発車するのを待った。結局バスが出発したのは定刻の20分後だった。いや、定刻なんて概念はそもそもないのかもしれない。
空港に着くと運転手がバスから荷物を下ろして乗客に手渡した。私たちの荷物は奥に置かれていて、受け取るのは一番最後になった。失敗した。
私は小走りでエントランスに入った。高根沢君も眉をしかめながらついて来て、出発時刻の確認をした。
「え、出発まであと3時間もある」
「この空港、こじんまりしててかわいいっすね」
しかも行きはケアンズからここまで来たが、帰りはここからシドニー行きだ。東京から遠ざかる。シドニーまで約3時間、シドニーから東京まで約10時間。もう今日中には帰れない。そして千秋からはまだ連絡がない。
私はシドニーでの乗り継ぎがスムースにいくことを心から願った。
高根沢君は私の気持ちは意にも介さず、塩谷さあん、通訳してくださあい、と店から叫んでいた。私は恨めしい目を彼に向けた。
――でも、待って。この逸る気持ちをヒートダウンさせてくれるのは、きっと彼だ。時々ちょっとムカつくけど。
ここから東京まで7000キロメートルも離れているし、じたばたしても事態は何も好転しない。私は、落ち着け夏希、と自分に言い聞かせながら高根沢君のところへ向かった。
最初のコメントを投稿しよう!