18人が本棚に入れています
本棚に追加
お土産を見た後、私と高根沢君はフードコートでラップトップを開き、仕事の続きをした。高根沢君はコーヒー好きのようで、カフェで買ってきたアイスコーヒーを飲みながら作業をしていた。
ようやく搭乗してからも機内で黙々と仕事を続けた。あの高根沢君が黙って仕事をしているのは変な気がしたが、ようやくやる気になったのだろうと思うことにした。
「塩谷さん、喜連川先生にファイル送っときました」
「おお、早いね。お疲れさま」
私たちの乗った小型飛行機がシドニー空港に着いた。私は祈るように搭乗時間を確認した。出発は3時間後だ。
「ちょうど搭乗手続きできる時間だよ、高根沢君、行こう」
「塩谷さん、その前にシャワー浴びませんか? 無料で使えるところがあります」
「そう、いいわね」
私たちはシャワールームに立ち寄り、30分後に待ち合わせた。中に入ると清潔で、これが無料とはうれしかった。ウルルでは歩き回ったし、夕べはよく眠れなかったし、ここに来て睡魔が襲ってきた。機内では心地よく眠れそうだ。千秋は無事だろうか、きっと大丈夫。東京まで10時間のフライト、ゆっくり休んでいこう……私は温かいミストに打たれながら、ぼんやりと考えた。
すっきりして出てきたが、高根沢君がなかなか出てこない。
男子が50分経ってもシャワーから出てこないなんて、特別おしゃれな感じでもないし、おかしい。誰か係の人を呼ぼうと思ってきょろきょろしていると、真っ青な顔をした高根沢君が出てきた。
「高根沢君、顔色悪いよ! どうしたの?」
「すみません、実は飛行機に乗った辺りから、腹が痛くて……」
私はすぐにピンときた。
「だってウルルのホテルでも空港でも、大量のアイスコーヒー飲んでたよね。氷入りの」
「ああ……」
「診療所に行く?」
「いえ、そこまでは」
「じゃあ、確か出国ターミナルにドラッグストアがあるから、搭乗手続きしてしまおう。歩ける?」
「なんとか」
高根沢君はふらふらと立ち上がった。
「私が荷物持つから」
「大丈夫っす」
「よろけてるでしょ。その代わりがんばって歩いて」
私は自分と高根沢君のスーツケースを両手に持ち、カメラ機材の入ったバッグを首にかけた。重くて首が折れそうだ。でも絶対に落とすわけにはいかない。おそらく高根沢君より私の方がふらふらしていたことだろう。
なんとかチェックインカウンターに着いて荷物を預けると、腕がしびれて力が入らなかった。セキュリティチェックと出国審査も無事に終え、出国ターミナルに入った。
「この辺で待ってて。胃腸薬買ってくる」
ドラッグストアで薬とミネラルウォーターを購入して高根沢君に飲ませた。
「大丈夫?」
「すみません、最後の最後に。塩谷さんは大丈夫っすか」
「私は平気。ホットコーヒーしか飲んでなかったから」
「ああ、確かに、はは」
高根沢君は力なく笑った。
最初のコメントを投稿しよう!