望まぬ政略結婚

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「では話は以上となります。 まだ決めなければならないことは多数ありましょうが、全体としてはこのような流れになります」 王族同士の婚姻ともなればその日一日結婚式をして終了、というわけにはいかない。 それが元々乗り気でないこともあり余計億劫に感じさせる。 ―――・・・あら、ボーっとしているうちに会議が終わっていたわ。 クローネとの結婚の話なのにガイルのことで頭がいっぱいだった。 国を挙げての一大事であるが、エリスにとっては退屈で面倒な行事でしかない。 「・・・ス。 エリス」 「・・・はい?」 ボーっとしていたせいかクローネにいつの間にか顔を覗き込まれていた。 「大丈夫? 打ち合せ中、ずっと上の空な感じだったけど」 「え、えぇ。 大丈夫・・・。 ありがとう」 「まぁ、長旅から着いて早々だからね。 何か飲み物でもいるなら持ってくるよ?」 正直言うと、エリスでさえガイルよりもクローネの方が客観的にいい人間だと思っている。 気配りもできるし心優しく快活だ。 だがやはり人の心はそう簡単なものではない。 ガイルと出会っていなければ、何度そう思ったのか分からない。 「そう言えば、この後のことなんだけど」 「?」 「少し休憩を挟んだら、折角だし一緒に街へ行かないかな?」 予定にない突然の誘いだった。 「街へ?」 「特に行く当てもないけど、この街を改めてエリスに見てもらいたいんだ」 「えっと・・・」 「この後何か、既に予定があったりする?」 予定は基本的にクローネ側に任せているため決まっていない。 ただ疲れていることもあり、正直乗り気ではなかったので頷くことができなかった。 返事に困っているとガイルが割って入ってきた。 打ち合せが終わったということで入室を許可されたのだ。 「もし行くなら俺もお供するけど?」 いくらクローネの国と言えど何が起こるのか分からない。 ガイルが付いてこないとしてもお付きの者が必要なのは当然だ。 だがそんな提案よりも、クローネはガイルの顔を見たことで顔を綻ばせていた。 「ガイルじゃないか! 久しぶりだな。 あぁ、いいよ。 ガイルも一緒に三人で行こう。 ガイルもいると心強い」 「久しぶりですね。 クローネ王子」 「そんなに堅苦しくしなくていいって。 僕と君の仲だろう?」 二人は年も近いし元々ガイルがこの国の貴族だったこともあり仲がいいのだ。 「エリスもいいかな?」 「・・・はい」 ガイルもいれば断る理由もないため渋々承諾した。 約一時間程の休憩を挟み、三人は揃って街へ出る。 「クローネ王子ではないですか! 今日も麗しいお姿ですね」 歩いていると店の人に声をかけられる。 分かってはいたことだが、クローネは町民からも人気がある。 「ありがとう。 でもその言葉は、僕の隣にいる彼女に言ってくれ」 「・・・え、もしかしてエリス姫様ですか!? なんとお美しい!」 「ど、どうも・・・」 手を擦り合わせて褒めてくる果物屋の店主を見ながらエリスはクローネに尋ねた。 「この人とは仲がいいの?」 「僕はよく街へ下りるからね。 至るところで声をかけられて、そこからよく話すようになった人が多いかな」 「そうなの・・・」 ―――私は自分の国でそこまでしていない。 ―――国民との距離を縮めようだなんて、思ったこともなかった。 ―――・・・基本的に、クローネ王子に私が釣り合わないのよね。 「エリス。 危ないよ、こっちへおいで」 馬車が通ると危険がないようにエスコートしてくれた。 「エリス姫、大丈夫?」 「えぇ。 ・・・クローネが守ってくれたから」 ガイルに安否を問われそう答えた。 ―――クローネの優しさは昔から変わらない。  ―――・・・でもこの優しさが本物だとしても、恋心はきっと偽物。 ―――許嫁になって本当に心から私を好いているわけではない。 エリス姫としてクローネ王子に心を許せない一番の理由はそれなのかもしれない。 クローネは許嫁だからエリスを受け入れているように見せている。 そう思えてならないのだ。 ―――・・・分かっている。 ―――これはお互いの国のためだって。 ―――だから、政略結婚も吞まないといけないって。 エリスはこのままだと駄目だと思い心に鍵をかけることに決めた。
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