望まぬ政略結婚

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意識的にこの時間を楽しもうと考えたのは事実だが、実際にクローネ王子と街を見て回るのは楽しいと思えた。 自国では気軽に散歩へ出向くというのが難しい。 お付きの人間も今はガイル一人だが、自国であれば5人10人付けられるのが当たり前だった。 「それで、ガイルはいつまでそんなに離れているんだい?」 楽しいが、クローネと共にだから、と尋ねられれば疑問が残る。 単純に自由に街を回るのが楽しかったし、ガイルが傍にいてくれることも大きい。 ガイルは二人とは少し距離を置いてはいるのだが。 それにクローネ王子は疑問を感じたのだろう。 「守る人間は必ず守りたい者の後ろにいなければならない。 これは常識だ」 「それは分かっているけどさ。 もう少し近付いてもいいんじゃない? ほら、エリスもガイルが離れて不安がっているし」 「ッ・・・」 突然自分の名を出されビクリとした。 だがガイルは首を横に振って言う。 「気付いてくれよ。 気を遣って少し離れていることをさ」 ―――・・・それは分かっていた。 ―――ガイルのさり気ない優しさは、私が一番知っている。 クローネとガイルが砕けた喋り方をするのはいつものことだ。 エリスと同様にガイルとクローネも仲がいい。 そして街を歩き色々な経験をして、気付けばすっかり日が落ちていた。 「今日は僕に付き合ってくれてありがとう」 「いえ。 こちらこそ、素敵な国を紹介してくれてありがとう」 「いえいえ。 素敵って言ってくれて嬉しいよ。 明日は休みだしゆっくり休んでね」 「えぇ」 クローネは挨拶をすると何も言わずに離れていった。 ただそれだけだというのに何故か様になっているよう思える。 クローネを見送るとガイルが隣に並んだ。 「エリス姫。 エリス姫の部屋に案内するよ」 「・・・えぇ」 ガイルと共に用意された客室へ向かう。 「お城の中にいる時は私の後ろにいないのね?」 「そうだな。 俺はこの国を信頼しているから」 「・・・そう」 客室は綺麗に整頓されていて、姫が泊まるに申し分ない状態に仕上がっている。 一応、女性の部屋であるということもありガイルが足早に出ていこうとしたのを見て、引き留め尋ねた。 「・・・ガイルはどう思っているの?」 「何がだ?」 「政略結婚のこと」 「・・・」 ガイルは聞き複雑そうな表情をした。 「ガイルは好きでもない人と結ばれるのは、仕方のないことだと思う?」 ガイルは指を顎に当てながら真剣に考えてから答える。 「・・・姫として、生まれた以上は」 「・・・」 「本当に辛いことだとは思うけど。 好きでもない人と結婚すること」 「・・・そう」 その言葉を聞きエリスは覚悟を決めた。 結局、自身の気持ちなんて誰も汲み取ってはくれないし、それを押し通すことも叶わないのだ。 「・・・エリス姫?」 不思議がるガイルにこの国にいる間は護衛の任を解くと冷たく言い放った。 「しばらくの間、護衛はいらないわ」 「他に護衛を付けるのか?」 「いいえ? そういうわけじゃないけど、貴方がいないなら他に誰かが付くことになるのでしょうね」 「いや、だけど・・・」 騎士として姫の護衛をしないなんて普通は有り得ない。 ガイルは姫の言葉を理解しつつも、躊躇っている。 「それは命令か?」 「しばらくはクローネと二人きりになりたいの」 「・・・そういうことなら」 その言葉にガイルは納得すると深く一礼し去っていった。 エリスは自らガイルと距離を取ることに決めたのだ。 ―――これでガイルのことを諦められる。 ―――これからはクローネと多くの時間を過ごして、私の気持ちがクローネに傾いたらいいけど・・・。 そう思っているというのに、知らぬ間に涙が頬を伝って止まらなかった。
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