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「それでね、このシーンのヒーローがもうかっこよくて。ときめきで鼻血ブーだよ」
「ふっ……ごめん。ちょっと何を言っているのか、よくわからない」
とりあえず第1段階として、好きな少女漫画の話をしてみたのだけれど、不発に終わった。
秋津くんが笑ってくれたのは、不幸中の幸いである。
やっぱり、秋津くんが読んでいないものの話はわからないだろうし、つまらないか。実写化されて話題になっていたから、イメージしやすいかと思ったのだけれど。
恋愛と言えば、を思案した結果、思い浮かんだのはそれだけだった。どうしよう。
もう直球で訊いてしまおうか。
「秋津くんって、どんな人がタイプ?」
「どうしたの。藪から棒に」
「恋愛ものの話をしていたら、なんとなく気になって。秋津くんって他の女の子と話しているところをあまり見かけないから、想像しづらい」
「……常盤さんは、よくいろんな人に話しかけられているよね」
静寂が私たちを包む。私、もしかして失礼なことを言ったっけ。いや、今考えてくれているのだろうか。
「そうだなあ。明るい子、かな」
その言葉を聞いた瞬間、私は今すぐ「お母さん、やったよー!」と叫びに行きたい衝動に駆られた。
待て、落ち着こう。いくらクラスメイトからうるさいと罵倒されてきた人間だとしても、秋津くんの言う明るい子の像とはまた違うかもしれない。
「常盤さんは、どうなの」
にやけそうになる顔を手で押さえていると、今度は私が秋津くんに質問された。
何と答えようか。
尋ねられたときには、2パターンの戦法が閃いた。
1つ目は、敢えて秋津くんを連想するような特徴を挙げて、もしかして自分のことが好きなのだろうか、と意識してもらう作戦。
そして2つ目は、秋津くんと真逆のタイプを挙げてみて、対抗心を煽る作戦だ。
普通に考えれば、前者の方が効果的なように思える。
だが、臆病な私は後者の方法をとることにした。もし秋津くんが私の好意に気づいてしまった場合、私は彼に避けられてしまうのではないかと恐れたからだ。
この関係が壊れてしまうのは、嫌だ。
「そうだね~。私も明るい人かな? 見た目もちょっと派手なくらいがいいかも。金髪も好きだし」
金髪は確かに好きだけれども、それよりもあなたのその綺麗な、そのままの黒髪が1番好きだよ、と思いながら言葉を吐いた。
「へぇ」
秋津くんは私の答えにあまり興味がなさそうだった。尋ねたのは単なる話の流れだったみたい。もう少し私に興味を抱いてくれたらいいのに。
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