ラブミー、秋津くん

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 夏期休暇になり、すぐに帰省したものの、数日でこの1人暮らしの住まいに戻ってきた。なぜなら、秋津くんとの通話ライフを思う存分にエンジョイしたいからだ。実家にいると、母からの早く寝なさいという圧でおちおち電話もできないのである。 「弟が私の通っていた高校と同じ高校に行ってるんだけどね。この間帰省したら、その弟が開口一番で『宿題出さなくても怒らない先生っている?』って言ってきたんだけど。駄目なところが私に似ちゃっているよ、あはは」 「弟さんがいるんだ。楽しそうだね」 「うん! こっちの服の方が似合うよって言ったら、怪訝そうな顔をするんだけど、なんだかんだ素直に聞いてくれるの。可愛いでしょ」 「はは、そうだね。せっかく帰省したのに、すぐにこっちへ戻ってきてよかったの?」  うっ。痛いところを突かれてしまった。秋津くんともっと話がしたいからだよ、なんて素直に言えたらどんなにいいだろう。 「ま、まあ、こっちでも遊びたいし! 秋津くんは? 帰らないの?」 「僕は来月に帰る予定だよ」  尋ねてみて気づいたが、秋津くんも帰省するであろうということを失念していた。私も来月になったらもう一度帰ろうかな。 「それはそうと、常盤さん。好きな人とは、うまくいきそうなの?」  突如投げかけられたその問いを聞き、固まってしまう。これは、どっちだ。自分のことだって気づいている? それとも違う人だと思っている? 「あはは、どうかな」  彼がどう考えているのかわからないので、こちらもお茶を濁すことしかできない。 「最近ずっと考えていたんだけどさ。あまりこうやって他の男と親しくするのが、よくないんじゃないかなって。相手の男が知ったら、いい気はしないと思うよ」  冷や水を浴びせられて、頭の中が真っ白になった。どうして、そんなことを言うの。 「だから、こういう風に電話するの、ちょっと控えよう」  どうして――ああ、私が余計なことを言ったせいか。私は選択を間違えたんだ。今すぐ訂正すれば間に合うのだろうか。違うよ、私の好きな人は秋津くんだから、これでいいんだよ、って。でも、秋津くんは電話をやめようとするくらい、私のことを何とも思っていないのが明白なのに? そんなことを言ってしまったら、事態が悪化しそうな気がする。  結局、私は何も言えなかった。音がしなくなったスマホをぼーっと見つめる。今まで存在を信じて疑わなかった、彼と私を結ぶ糸までプツンと切られてしまったように感じた。  それから秋津くんは、電話をかけてもほとんど出てくれなくなった。珍しく出てくれたときでも、特に用件がないとわかるとすぐに切られてしまう。  あまりにも素っ気ない。本当は、私の好きな人云々は関係なくて、単に私が鬱陶しくなっただけかもしれない。目の前にあるホットのカフェラテをぐるぐるとかき混ぜながら考える。  もしかして、秋津くんにも好きな人ができたのだろうか。それならば合点がいく。これまで他の友達との予定がある日や遅くまでバイトの日を除いて、週の半分以上は寝落ちするまで通話をしていたけれども、もし新たに好きな人ができたとすれば、その習慣は邪魔になる。  私とこれだけ夜に電話することができるのだから、彼女はいないのだなあと思っていた。その安心感を得られた行為の消失は、つまるところ行き着く先がその逆であることを意味する。味気なくなった日々は、私に懊悩と憂いをもたらした。
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