ラブミー、秋津くん

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常盤(ときわ)さん、もう寝た?」  まだ起きているよ、と返事をしたいのに、体が言うことを聞いてくれない。  まだ、話していたいのに。もっと、ふたりで話をしたいのに。  私の心に反して、何度も開こうとした目蓋が観念しなさいとでも言うように重みを増していく。 「おやすみ、常盤さん」  その声が甘く響いたように思えたのは、夢の中だからだろうか。  夢か現か、曖昧なその境目で微睡(まどろ)みながら、私は今日も幸福感に浸る。  深い色のコーヒーの中に、砂糖とミルクがたっぷりと注がれていくような感覚。そして、私はその中に沈んでいくような気配を覚えながら、深い眠りに落ちていった。  私たちのこの不思議な関係が始まったのは、2か月ほど前のことだ。  通話の相手である秋津(あきつ)登一(といち)くんとは、大学のグループワークで一緒になった。  初めのうちは、グループワークを進めるのに必要である、事務的な話をするために電話を繋いでいたのだが、次第に雑談も交えるようになっていった。  そして、課題を終えた今でもなぜか、夜毎に電話を繋ぐという関係が続いている。  彼も私も、今年から実家を離れて1人暮らしを始めたせいで、淋しかったのかもしれない。  グループワークの終了とともにこの関係が終わらなかったことは、私にとって好都合だった。  これは彼にアタックする絶好の機会にほかならない。  議論している最中で意見がぶつかっても決して感情的にならず、反りが合わない相手とも円滑なコミュニケーションを模索していく。そんな彼のクールな姿は、私の心を鷲掴みにしてしまったのだ。  ただ、私は知っている。  彼のような、いかにも大人しそうで、一見女っ気がなさそうなタイプでも、決して油断してはならないことを。  こういう人こそが、周りの気づかぬうちに、同じような控えめの女の子とくっついているものなのだ。  それに、秋津くんは落ち着いていて目立つような人ではないけれど、凄くかっこいい。服装はいつもシンプルにまとまっていてさり気なく彼の美的センスを感じるし、髪型もすっきりとした黒髪で爽やか。目が合ったときなんて、潤んできらきらと輝く瞳が星空みたいで吸い込まれそうになるし、それに加えて微笑んだ顔を見てしまった日にはズッキュンバッキュン、ハートを射止められてしまうこと間違いなしだ。  そういうわけで焦った私は、ある作戦を実行することにした。彼に恋バナを持ちかけて、私を女として意識してもらおう、というものである。  これだけ日常的に長時間の通話をしていて恋仲に進展しないのは、確実に女として意識されていない証拠だ。  恋愛相談に乗っているうちにその人のことを好きになってしまった、というのはよく聞く話だから、きっと効果があるだろう。
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