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階下で取り上げられた武器を返してもらった後、憂炎とともにグランドフロアで待っていると、本当に梓豪が現れた。凶悪な表情を浮かべながら、のしのしと歩いてくる。
憂炎がハギヤとシスイを見てにっこりと笑った。
「それでは、小豪をよろしくお願いしますね」
すかさず少年のがなり声が飛んでくる。
「小豪って呼ぶなよ、炎哥」
「よろしくな小豪」
これはシスイだった。間違いなく名前を侮辱された件を根に持っている。
梓豪は三人の前まで来ると、無表情にシスイを見下ろした。
「もう一度呼んだら殺すぞ」
睨み合う龍と虎。ハギヤは空を仰ぐ。
無慈悲にも憂炎がさっさと出て行ってしまうと、ハギヤは自分より下の位置にある梓豪の頭に向かって声をかけた。一応友好的態度を見せようと、広東語を用いてみる。
「今日はどうする。もう夜も遅いけど」
「普通話でいい。お前の広東語は聞き苦しくてたまらん。豚が死ぬときの声みたいだ」
差し出した手は振り払われるどころか、めった刺しにされて返ってきた。
ハギヤは呆然としたが、シスイはわざと感心した調子で言った。
「耳に豚を飼う奴がいるとは初耳だな」
梓豪は舌打ちをしたが、無視することに決めたらしい。上着の懐から携帯端末を出し、画面を見ながら聞く。
「お前たちの宿はどこだ」
発音にケチをつけられたハギヤが憮然と答える。
「佳賓大旅社」
梓豪は携帯端末を素早く操作した後、元の場所にしまった。
「よし、今日は一度帰れ。明日の正午に旅社の正面入口から出てこい」
「帰してくれるんだな」
意外そうにハギヤが普通話で言う。梓豪は彼を睨んだ。
「言っておくが、時間になる前に建物から出るなよ。出ていく姿を見たらすぐ俺に連絡しろと言ってある。そうなったら額に孔開けて特製タペストリーにしてやるからな」
「それは……ご趣味のよろしいことで」
ハギヤが呟くと、シスイが鼻を鳴らした。
「全くだ。生皮の敷物でも敷いてるんじゃないか」
梓豪が苦虫を嚙み潰したような顔で吐き捨てた。
「聞こえるように言ってんじゃねえよ」
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