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序幕
家、金、食――彼らには全てがなかった。
来し方もなければ行く末も危うく、生きる術も意味もわからない。
路地裏に並んで座る男女の子ども二人を、夜の生ぬるい雨が打つ。十代の半ばは過ぎていないであろう、あどけなさの残る二人だ。
傍らの室外機が異音を放ち、窓から知らない言語をまくしたてるラジオが聞こえる。
彼らには己の痩躯の他に武器があった。うまく使えば、生き延びることができた。
けれども彼らは奪われすぎた。奪われた過去が大きすぎて、小さな未来を手に入れようという気にさえなれなかった。
どろりと黒い少年の瞳は、鮮血を浴びた顔の中で虚ろに揺らぐ。
少し離れたゴミ袋の山の上に、男の死体が捨ててある。頭と胴体を綺麗に切り離された死体。神経を切断されてから、彼の意識は何秒あったのか。
やったのは二人の子供の片割れである、この少年だった。
隣で本当に息をしているのかもわからない相棒の少女は、少年に体をぴったりとくっつけて、体温を分け合うようにしながら、足を縮ませて座っている。彼女は祈るように目を閉ざし、少年の腕に片方の腕の指を添えていた。
少年は二本の足を三角に立て、両腕を投げ出していた。
血しぶき一つついていない少年の丸い指先が、ぴくりと動いた。
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