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二人はさっと顔を上げた。見覚えのある狐顔が、虚を突かれたように三人を見ていた。
オリヴァーは、三人を代わる代わる見下ろした。忠告したはずの梓豪と二人が一緒にいることや、なぜこのエリアに来たのかということなど、色々と言いたいことがあっただろうが、二人に向けて話しかけてくることはなかった。驚愕を面皮の下に沈め、親しみ深い笑顔を浮かべる。
「よう梓豪。お前こそ一人じゃないとは珍しいな、どうしたよ」
気軽な調子でオリヴァーは梓豪に声をかける。梓豪は後頭部を掻いた。
「あー……えーと……説明すると面倒なんだよな。今だけ同行してやってるというか……うーん、まあそんな感じ」
「どういうことだよ」
オリヴァーは笑ったが、今の梓豪の発言で、組織側に自分とハギヤたちの協力関係については明かされていないと踏んだらしい。
「俺は関わらないでおくよ」
同盟者は飄々とのたまい、そのまま通り過ぎようとする。梓豪が困惑顔で振り向いた。
「おい、そっちは何しに来たんだよ」
オリヴァーは含み笑いで答える。
「まあ、女朋友(ガールフレンド)に会いにな」
「適当なことばっか」
梓豪は短くため息をつき、階段に足をかける。オリヴァーは少年に向かって言った。
「この辺に住んでるって聞いたもんで、な」
「しつこくすんなよ」
「爸爸(お父さん)が怒っちまうかな?」
「そうかもな」
あまり秘密裏に動こうとすると徳華の目に触れるぞ、と梓豪は釘を刺しているのである。シスイが顔だけ振り向き、背後のハギヤに無言で目配せする。ハギヤも小さくうなずいた。
先ほどのオリヴァーの口調は確かに、見え透いた嘘を言うふざけたものだったが、彼がフィオナを探していることを踏まえると、意味が変わってくる。
女朋友……つまりフィオナを探して、オリヴァーもここを訪れた。この辺に住んでいると聞いたと言うなら、核心に、フィオナの居場所に近づいてきているということだ。
オリヴァーも独自の調査を経て、ここにたどり着いたのだ。本当にここにフィオナがいるのかもしれない。
しかし気になるのは、梓豪が本当にオリヴァーと二人の関係を知らないのかということだ。組織の情報網の詳細がわからない以上、梓豪が知らないふりをしてこちらの出方を伺っている可能性もゼロではない。
シスイは梓豪の背を盗み見たが、こちらの様子を伺っている素振りはない――今は。
オリヴァーがシスイの横を通り過ぎる。ハギヤと互いに目も合わせずすれ違う時、オリヴァーは英語でこう囁いた。
「坊やに絆されるなよ」
坊やというのが誰を指しているかは、明白だった。
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