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「んだよ、炎哥かよ。びっくりさせんな!」
小声で切れながら、慌ただしく着信を拒否する梓豪に、ハギヤが言った。
「フィオナのことが何かわかったのかもしれないよ」
とはいえ今は報告を聞いている場合ではないのも確かだ。梓豪は眉間にしわを寄せた。
「……わかってるよ、後でかけ直す」
なんとなく、梓豪が素直になってきた気がする。ハギヤは布団を挟んで梓豪の向かいにあぐらをかき、彼が端末をしまうのを待って話しかけた。
「それで、今後どうするかだけど」
「最後にあいつらと交戦してから二十分経てばいいんだったよな」
「そう。ただ、あいつら、『梓豪』って呼んでいたよね」
不気味なアンドロイドに名前を呼ばれたのを思い出し、梓豪は顔をしかめた。
「ああ、俺の声を聞いて立ち上がったし、俺の名前を呼んだ」
「じゃあきみの姿を識別して、また襲ってくるかもしれない。警戒モードが解除されても、探索モードは解除されていない可能性がある」
「見つかったら追いかけられるってことか?」
ハギヤの肯定に、梓豪はまた嫌そうな顔をした。シスイの声が少し遠くから飛んでくる。
「ただ、EZ008型は暗殺プログラムが仕込まれている。公衆の面前で襲撃することは基本的に行わない。あれの戦闘能力では増援を呼ばれたら太刀打ちできないためだ」
「EZなんとかっていうのは、さっきのアンドロイドのこと」
ハギヤが補足する。梓豪は思案顔をした後、ふと思いついたように言った。
「つまり、追跡されにくい道を使って、人通りの多いところに行けばいいのか」
ハギヤもシスイも、驚いたように口をつぐんだ。梓豪は肩をすくめる。
「……違うのか?」
「いや、その通りだよ。提案を先回りされたから驚いただけ」
ハギヤが言うと、梓豪は心なしか得意げに鼻を鳴らした。そして端末の時間表示を確認し、立ち上がった。
「そろそろ二十分だ、行くぞ」
「作戦はあるのか」
シスイの問いには振り返らず、梓豪はカーテンの内側に身を滑らせる。
「要は道じゃねえ道を通りゃいいんだろ」
建て付けの悪い窓としばし格闘し、窓枠から外す勢いで開け放った。
外が見えるかと思いきや、見えたのは隣の棟の赤錆にまみれた外階段だった。ベランダより階段が若干低い位置に接しているので、ベランダの手すりから身を乗り出せば、いとも容易く飛び移ることができそうだ。
梓豪が振り向く。
「ここは第二の九龍城だ。そんな道は百とある」
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